2024.01.18

動物実験代替法チャレンジコンテスト2023 優れた発表を紹介

医薬品の開発の段階で安全性評価のために行なわれる動物実験について、いま世界的にも適切な施行をする方向に進められており、3Rs(Reduction(動物数の削減)、Refinement(動物に対する苦痛軽減)、Replacement(動物を用いない代替法への置換)が提唱されています。
一般社団法人日本動物実験代替法学会は、若い世代にもこの考えを普及する目的で高校生対象のチャレンジコンテストを開催。医薬品や化粧品などの化学物質の安全性評価のための、脊椎動物を使わない新しい試験法のアイデアを募集しました。
従来の枠を超えた自由で斬新な発想を期待するとともに、課題解決の向上や生命倫理についての理解を深める機会とするものです。
2023年度は前年よりも多数の応募があり、2023年11月に千葉大学でおこなわれた日本動物実験代替法学会第36回大会の中でポスター発表と表彰式が行われました。
今回の受賞者と提案した概要を紹介します。


最優秀賞『マボヤを代替動物に』

藤本いずみさん、平田瑞咲さん、安田祐香さん、若林志歩さん(学校法人ノートルダム清心学園 清心女子高等学校)

甲状腺の原点と考えられている原索動物であるホヤの内柱に焦点を当て、飼育可能でサイズが大きいマボヤを代替動物とした。いま甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の治療薬にはマウスの動物実験が行われているが、その代替法として、マボヤを用いて新薬の臨床実験が可能か、既存の治療薬の効果を検証する実験を考えた。
15個体のうち、5個体には甲状腺機能亢進症の治療薬、 5個体には甲状腺機能低下症の治療薬、残り5個体は何もしない実験で、それぞれの薬を投与した際の心臓の働き、出水量、体重の変化から、薬の作用や生理反応を確かめる実験を考えた。これから実際に実験を行い、研究を深めていく。
マポヤの特徴や先行研究などがよく調べられており、背景情報にとても厚みがあった。背景情報から実験のアイデアまで画像や引用文献を適切に活用し、プレゼンテーションとしてもとても分かりやすい構成になっていたことが評価された。

発表者コメント
「マボヤを代替動物として考えていく上で、実験に用いる動物が 数々の条件を満たさなければならない難しさをかなり感じた。また、ホヤを代替動物として考えて るチームは多く、他のチームの発表を聞くたびに新しい発見があり、とても勉強になった。審査員の方々の質問に答えていくうちに次々と課題点が見つかり、より「研究したい!」というワクワクが大きくなっていった」

優秀賞『ホヤを用いた脳神経に関する動物実験代替法』

佐々木柚榎さん(大阪市立豊崎中学校)、岩井愛希さん(大阪教育大学附属高等学校池田校舎)、近藤千智さん(大阪府立豊崎高等学校)、高田茜さん(学校法人大阪医科薬科大学高槻高等学校)、横川暖さん(長尾谷高等学校)

ホヤは脊索動物と呼ばれる無脊椎動物の中で最も私たち脊椎動物に近く、神経系が脊椎動物より単純な形として存在していることから、神経系に関する新たなモデル生物として考えた。具体的にはホヤのGABA-B受容体に作用する薬剤 (バクロフェン・ファクロフェン) を投与し、実際にホヤが薬剤に対しどのように反応するか確かめる。実験を通して、ホヤが脊椎動物を代替しうる可能性について調べる事が可能と考える。また、単純な神経系を持つホヤの薬剤応答を調べることは、神経系と薬剤の相互作用をより詳細に理解していくことにも繋がる。
しっかりとした文献調査の内容に基づいた実験デザインがされていて具体性があり、実現性のありそうなアイデアを論理的に説明できていたので説得力のある提案として評価された。

発表者コメント
「提案を考えるにあたって、様々なオープンアクセスの論文(主に英語)を読み込むのは大変でしたが、参考になりました。代替のために多くの人の地道な努力が必要とされることに気づけました」



優秀賞『カタユウレイボヤを用いた動物実験の可能性』

金田禅さん(雲雀丘学園高等学校)

代替動物としてカタユウレイボヤに着目した。まず、神経細胞全体で特異的に発現する遺伝子のプロモーター領域に、蛍光タンパクであるGFPを組み込ませたホヤのトランスジェニック個体を複数準備。そして医薬品を種々の濃度で溶解した海水中で一時的に飼育する。蛍光顕微鏡を用いる方法、切片を作成して組織学的に解析する方法、ライブイメージングを用いる方法を使い分けて観察し、詳しく調べる際は、機械学習法などに基づく画像解析法を用いる。展望として、直接的に神経系に作用する新規医薬品 (抗うつ薬、医療用大麻、睡眠薬など) の研究の発展に繋がることなどが期待できる。
プレゼンテーション力が高く発表資料の構成も整理されており全体として説得力のある提案として評価された。ライブイメージングや機械学習による画像解析法を最適化することができたら、表現型を直接評価できる点で有用である。

発表者コメント
「高校3年生での個人参加ということで、受験勉強との両立に難儀しました。時間的制約のある中で、優秀賞を受賞できたことは、自信に繋がりました。動物実験代替についてはもちろん、研究への姿勢など、たくさんのことを学ぶ機会になりました」

奨励賞『オオカナダモの原形質流動速度の違いから分かる刺激による反応』

高田暢々華さん、小山明那さん(学校法人ノートルダム清心学園 清心女子高等学校)

動物実験の代替として、オオカナダモの原形質流動に着目した。動物実験の代替として、原形質流動は、モータータンパク質の働きによって葉緑体が動く。その働きに関与するミオシンは、動物細胞の筋収縮でもみられるため、オオカナダモの原形質流動の動きの変化を観察することで、筋ジストロフィーの治療薬の開発の手助けになると考えた。
動物由来の細胞等を活用するのではなく植物にフォーカスを当てながら、動物細胞の動きと比較するという着眼点が斬新。特に今回の提案ではアイデアにとどまらず、実際に実験をしたうえで考察を膨らませたことが評価された。

発表者コメント
「研究を重ねていく中で様々な視点で物事を考え問題点をみつけることができた。試行錯誤を重ねる楽しさを感じた」

奨励賞『人工培養したカブトガニの血液を用いたエンドトキシン検出法』

高田茜さん(学校法人大阪医科薬科大学高槻高等学校)、岩井愛希さん(大阪教育大学附属高等学校池田校舎)、近藤千智さん(大阪府立豊崎高等学校)、佐々木柚榎さん(大阪市立豊崎中学校)

カブトガニの血球成分から作られるライセート試薬は、エンドトキシンと反応すると凝固反応を起こすため、エンドトキシン検出に広く用いられている。しかし、その個体数は絶滅危惧種に指定されるほどに減少している。そこで、カブトガニの血球を人工的に分離・培養し、エンドトキシン検出に用いることで、カブトガニの保全を目的とした代替法を提案した。
背景となる文献調査をしっかりされていたことで、アイデアの必要性がとても分かりやすい提案になっていた。代替するターゲットの着眼点が他の提案と異なり、実験内容が具体化されていた点も評価された。

発表者コメント
「審査会を通して頂いたアドバイスなどを参考に、提案した代替法に関する実験を実際に行いたいと考えています!」



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