研究ノート
2023.11.30
【研究室訪問】「病気に「なってから治す」のではなく、「なる前に予防」する世界へ」
横浜薬科大学 環境科学研究室
三浦伸彦教授インタビューNobuhiko Miura
-時間毒性学と概日リズムからアプローチする健康障害リスクマネジメント-
三浦教授はどのような研究に取り組まれているのですか?
私たちの身体の中には時計があります。『寝て、起きる』。毎日繰り返している当たり前のことに、この時計が大きく関わっています。時計が乱れてしまうとさまざまな健康障害が起こってきます。どの様な健康障害が起こるか?そしてそれを防ぐにはどうしたら良いか?というのが本研究室の主軸となるテーマです。
また、私たちの身体の中の時計によって、薬を飲んだときの効果や副作用の強さも1日のうちで変わってきます。薬は患者さんにとっては「薬」でも、健康な状態にある人には「健康を乱す物質」になり得ます。医療従事者曝露が病院などで問題視されていますので、医療従事者の健康を守るために薬の影響に対する時計の作用も「時間毒性学」として研究しています。
この研究は社会的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
私は「病気になってから治す」よりも、病気になる前…東洋医学でいう「未病」の状態で「病気を予防したい」と考えています。予防することができれば、病気になってから治療するよりも、使用する薬も量も減り、患者自身の体への負担も少なくて済みます。私は、身体の時計(概日リズム)の乱れに対する研究、薬の影響に対する時計の作用の研究を進めています。どちらの研究も、起こりうる健康被害に対し、健康影響やその作用機序を科学的に明らかにすることで、医療現場や日常の生活における「気を付けるべきこと」の精度をあげることを目的としています。それが、健康障害を発生させるリスク自体を低減させる「予防」へと繋がっていくのです。
研究を志す高校生へメッセージをお願いします。
しっかりとたくさんの本を読み、文章を通して様々な知識に触れましょう。研究においては英語ももちろん大切ですが、まずは日本語をしっかり読める、書けるようになってください。正しい読解力を身に着けることが、今後、あなたたちの進む道を広げていきます。
三浦伸彦(みうら・のぶひこ)
横浜薬科大学 薬学部 教授
最終学歴 北里大学大学院 薬学研究科 薬学専攻課程修了
博士(薬学)(東北大学)
専門分野:環境科学 時間毒性学
趣味はスキンダイビング(海での素潜り)。バンドも組んでおり、ベーシストとして音楽活動に勤しんでいる。意外と研究者には音楽好きが多く、「学会の懇親会で同席した研究者の方と趣味の話で大いに盛り上がることもあります」。
「足りないことを恐れないで」-好奇心とやる気があれば、研究には挑戦できる!-
三浦教授の指導の下で研究している学生にもお話を伺いました。
鎌田 大暉さんTaiki Kamata
いま取り組んでいる研究を教えてください
私は寒さや暑さなどの物理的刺激、化学的刺激に反応する体内のセンサーである「TRPチャネル」と喘息の関係性について研究を行っています。喘息は気道に炎症が起こることで、咳・息苦しさ・喘鳴などの症状が出る病気です。アレルギーや温度変化などが原因で起こり、発作が生じやすい時間帯があります。また、先行研究により、TRPチャネルと喘息発作との関連が報告されています。
私の研究では、喘息の起きやすい時間にはTRPチャネルの量的変動が関係していると予想し、TRPチャネルの発現量を調べています。将来的にTRPチャネルと喘息の関連性を明らかにし、新しい喘息薬の開発に結びつけることを目指しています。
なぜ、環境科学研究室を選びましたか?
私自身が幼いころ、小児喘息を患っていたこともあって、大学での研究室紹介の際に三浦先生が喘息に関わる新しい研究を進めていると知って、興味を持ちました。
研究生活はどうですか?
研究を志す高校生へメッセージをお願いします。
私は高校時代、数学は不得意、生物も選択していないという状況でしたので、大学に入るまでは「薬科学科に進学して大丈夫かな?」と不安でした。しかし、大学に入ってからでも、好奇心とやる気さえあれば十分に学びなおせるし、研究を進める上で問題はありませんでした。ですので、途中で考えが変わって進路を変更したとしても大丈夫です。必要があれば、後からいくらでも身につきます!
鎌田大暉 (かまた・たいき)
横浜薬科大学 薬学部薬科学科 4年 環境科学研究室
研究テーマ:TRPチャネルと喘息の関係性
企業に就職が内定しており、産業廃棄物の環境への影響や土壌汚染の適正な処理について分析する業務に就く予定。
趣味は旅行。電車やバスなどの公共機関や徒歩でいける範囲で、行ったことがない場所を訪れたい。「観光名所よりも地元のローカルさを感じられる場所の方が好きです」。
■研究室紹介
横浜薬科大学 環境科学研究室
環境衛生と環境保全を目的とした最も身近な薬学研究領域
現代社会において、農薬、PCB、ダイオキシン、環境ホルモン、フロンガス、排気ガス、有害廃棄物などの地球環境に関わる問題は非常に多く、その大半が未解決です。この分野は、環境衛生と環境保全を目的とした学問で、最も身近な薬学の研究領域です。
(取材実施 2023年10月)
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