2025.01.27

【研究室訪問】天然由来化合物を医薬へつなぐ化学合成のチカラ
-トライ&エラーで生み出す新しい反応-

横浜薬科大学 天然有機化学研究室

庄司満教授インタビューMitsuru Shoji

天然有機化学研究室ではどのような研究に取り組まれているのですか?

自然界には、抗がん作用をはじめとする興味深い活性を持つ化合物を生産する菌や植物、海綿などがあります。これらの化合物は人間にとって非常に有用であるものの、菌の変異や自然界における存在量の少なさにより、十分な量を入手できないことがあります。当研究室では、このような希少化合物を化学合成し、医療の発展に貢献したいと考えています。
また、複雑な構造を持つ化合物の化学合成には、多くの分子変換工程が必要です。そこで、複数の工程を1回の反応で達成できる、新しい反応の開発にも取り組んでいます。特に、環境保護の観点から、光エネルギーを利用する反応に注目し、可視光と色素を組み合わせた新反応の開発と、これを利用した生物活性化合物の化学合成を目指しています。

この研究はどのように役立つのでしょうか?

がんなどの病気に効果を持つ希少な化合物の安定した供給を可能とする合成経路の確立です。自然界に存在するこれらの化合物は、極めて少量しか得られないものが多く、医薬品として広く使うには人工的な合成が不可欠です。そのため、私はこれらの化合物を効率よく合成する技術を確立することに力を注いでいます。
また新しい化学反応を開発が進めば、希少化合物の合成効率も飛躍的に向上し、より迅速に医薬品を生産できるようになります。

研究の魅力とは?

「世界初」を生み出せることです。
実験は、必ずしも思い通りに進むわけではありません。うまくいかなかった結果は失敗ではなく、予想外のことが起こった「新しい発見の種」と考えましょう。この予測できない展開が、研究にさらなる魅力をもたらすのです。
もう一つの魅力は、次世代の若手研究者を育成できることです。これから活躍する若者たちが力をつけ、社会に貢献できるようになるための手助けをしたいと考えています。

高校生へメッセージをお願いします

自分が興味を持ったことを、思いきり掘り下げてほしいです。自分が楽しいと感じることを突き進める中で、新しい発見や成長につながることがたくさんあります。何かに挑戦したときに、うまくいかないこともあるでしょう。でも、それは失敗ではありません。大切なのは、諦めずに挑戦し続けることです。
また、部活動やサークル、アルバイトなどで、人と積極的につながることもおすすめします。他の人とつながりを持ち、その関わりを楽しむことで、人生がより豊かになります。人との交流は、思わぬチャンスや新しい視点を与えてくれますよ。

庄司 満(しょうじ・みつる)

横浜薬科大学 薬学部 天然有機化学研究室 教授

最終学歴 東北大学大学院理学研究科博士課程修了
博士(理学)(東北大学)
専門分野:有機合成化学、天然物化学
現在の趣味は、我が子と一緒の時間を過ごすことです。子どもが生まれる前は、夫婦でスキューバダイビングを嗜んでいました。人とのコミュニケーションは自分にないものを学べる良い機会で、貴重な時間になっています。





進路は自分の夢を優先して選ぼう 創薬系への強い希望で研究生活を楽しむ

研究室所属の学生にもお話を伺いました。

露口 実祝さんMinori Tsuyuguchi

いま取り組んでいる研究・実験内容を教えてください。

ヒトの胃に棲息するピロリ菌は、消化性潰瘍や胃がんなどの消化器疾患を引き起こします。ピロリ菌感染の治療法は薬による除菌ですが、ピロリ菌だけでなく腸内細菌も殺してしまうのが問題です。腸内細菌を守りつつピロリ菌のみを殺菌する化合物の部分構造を変化させ、それによってどのように殺菌作用が変化するかを研究しています。また、よりピロリ菌を選択的に殺菌する薬の開発についても研究しています。

なぜ、天然有機化学研究室を選びましたか?

もともと創薬系の研究をしたいという強い希望があったので、化学系の研究に携わることができる研究室を選びたいと思っていました。大学1、2年生のころから、庄司先生や鰐渕先生には授業の質問をしたり、化学に関する疑問を相談したりしており、研究室に入る前から先生方との交流の機会をたくさん持っていました。

研究生活はどうですか?

とても楽しいと感じています。実験器具を扱った経験はあったものの、溶媒の取り扱いなど本格的な実験は研究室に入って初めて経験しました。研究を進めていくうちに、失敗するのは当たり前で、それでも構わないと思えるようになりました。実験が成功したときの喜びは、研究室に入って初めて知った感覚です。自分が考えたことが形になったときの達成感は、言葉にできないほど大きなものがあります。
研究室には一緒に悩んでくれる仲間がいて、庄司先生ともよくディスカッションを重ねています。早いうちにいろいろな反応にトライして経験を積んでいきたいと考えており、それを実現できる環境にいられることがとても嬉しいです。

研究を志す高校生へメッセージをお願いします。

「理系か文系か」で悩んだとき、得意な教科で選ぶのではなく、自分の夢で選んでほしいということです。私自身、文系科目の方が得意で、理系科目の成績は決して良くありませんでした。それでも、創薬の研究をしたいという強い夢があったので、思い切って理系進学を選びました。1人で悩みすぎず、友人や先生、家族などに相談することで、自分が思いもしなかった解決策が見つかることもあります。自分の選択を信じて進んでください。

露口 実祝(つゆぐち・みのり)

横浜薬科大学 薬学部 薬科学科4年 天然有機化学研究室

研究テーマ:抗ピロリ菌化合物の構造活性相関研究
2023年2月から研究をスタートさせ、研究生活1年9ヶ月目 (取材時)
夏はシュノーケリング、冬はスキーと体を動かすアウトドア系の趣味が好きです。小学生の時はゲームよりカブトムシ派でした。

■研究室紹介
横浜薬科大学 天然有機化学研究室


人類は、動植物・微生物が生産する化合物を、病気・ケガの治療や健康増進に役立ててきました。一方で、強力な薬理活性を示すものの、天然から微量しか得られず薬になっていない有機化合物が数多く知られています。このような希少天然有機化合物の効率的合成手法の開発と、構造改変による高活性・低毒性・標識化合物の創出は、創薬研究における非常に重要な研究領域です。

(取材実施 2024年11月)

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