2022.10.11

ハマヤクサイエンス研究会 第1回学術発表会 ~高校生の全発表をレポート!

9月17日、横浜薬科大学を会場に「ハマヤクサイエンス研究会第1回学術発表会 ~自然科学への探求~」が開催されました。今回は16組もの高校生による研究グループが集まり、ポスターセッション形式で各々の研究の成果を発表しました。
発表内容は、化学、生物、農学、地球科学と多岐に渡って非常に充実しており、審査員である大学教諭たちとだけでなく、発表者である生徒同士でも熱い議論が行われ、研究ジャンルを超えた交流の場となりました。
ここでは発表会での全てのエントリーをご紹介します。

研究タイトル「Gibson-assembly法による形質転換技術の修得」

横須賀学院高等学校 理科学部
内田美咲さん(1年)、吉兼友渚さん(1年)

イカの体表から単離した海洋性発光細菌(P.Kishitanii)の研究に必要な技術習得のため、本発表では、Gibson-assembly法とリン酸カルシウム法を用いて、汎用発光レポーターであるGFPを大腸菌へ導入する実験を行った。実験結果より、作製した組み換えDNAを含んだ大腸菌から発光が確認され、塩基配列解析においてもGFPと一致することを確認した。今後、この技術を用い、研究を進めていく予定である。

PA-01

研究タイトル「ボラはなぜ跳ねるのか」 最優秀賞

関東学院六浦高等学校 普通科
上野大河さん(2年)、小宮貴雅さん(2年)、三浦大和さん(1年)、シノットキアン雅さん(1年)

発表者らは通学途中に見える平潟湾で多くのボラが跳ねることに興味を持ち、3年前より「なぜボラが跳ねるのか」の原因研究を行ってきた。ボラのジャンプは「エアポンピング」と「ビッグジャンプ」の2種類があり、観察と実験の結果より、エアポンピングは水中の溶存酸素量が少ないときに多く行われる呼吸の補助としてのジャンプであり、ビッグジャンプは溶存酸素量と関係なく、ボラが視覚的に脅かされたり、振動を感じたときに興奮して行うジャンプであることが示唆された。ビッグジャンプに関しては、ビッグジャンプによる海中の振動を確認した別個体もビッグジャンプを始めることから、ボラ同士のコミュニケーションツールとしての役割もあると考えられる。

最優秀賞おめでとうございます
日常の中で気づいたふとした疑問を研究テーマとして取り上げるユニークな着眼点からスタートし、サイエンスの研究結果にまで成り立たせていました。(編集部より)

PA-02

研究タイトル「香りの強さと睡眠の質に関する研究」

関東学院六浦高等学校 山下和葉さん(2年)

不眠症の改善や睡眠の質向上に繋がるとされる「寝香水」より着想を得て、香りの強さによる睡眠の質に変化があるかどうかの調査を行った。男性4人女性5人の合計9名を対象に香水を使用した睡眠の実験を行った結果、睡眠中に強い香りという強い刺激を受けると睡眠の質が低下することがあるが、向上することがないということが示唆された。今後、実験の対象人数の拡大なども視野に入れ、研究を進めていく予定である。

PA-03

研究タイトル「コバルト(II)錯体配位子置換による呈色への影響に関する研究」

神奈川県立神奈川総合産業高等学校 化学工学部
原田遥生さん(2年次)

Co2+の錯体は配位子置換が起こりやすく、[CoCL4]2- + 6H2O ⇆ [Co(H2O)6]2+ + 4CLaq のような代表的な反応による配位子の置換反応を水溶液の呈色から確認することができる。本研究では上記反応において、いまだ検証例が少ないCl-濃度・温度・Co2+濃度における双方の条件変化の関係性について検討を行い、HCL濃度の違いにおける錯体の存在比が水溶液の呈色へ与える影響や温度変化による呈色変化について明らかにした。

PA-04

研究タイトル「ビスマス結晶を大きくする条件」 優秀賞

神奈川県立神奈川総合産業高等学校 化学工学部
松本碧空さん(1年次)、渡瀬さくらさん(1年次)

ビスマス鉱石から生成されるビスマス結晶を人工的に生成する際において、より大きなビスマス結晶を取り出す条件を明らかにするため、実験により生成されたビスマス結晶の質量や体積の違いによる、色と関係性を調査した。今回の検討により、質量、体積によってビスマス結晶の表面に形成される酸化被膜の厚さが異なることで、結晶の色味が変化することを確認した。今後は結晶化の際の冷却時間を変えることで起こる違いなどを検討していきたい。

優秀賞おめでとうございます
「実験で、ビスマスを高温で溶かす時、火傷しそうになったこともあり大変だった」とのことだったので、今後も怪我をせず、ビスマス結晶を大きくする最適な条件がみつかるよう健闘を祈ります!(編集部より)

PA-05

研究タイトル「光触媒による室内ホルムアルデヒド除去調査」

鶴見大学付属高等学校 高詩怡さん(1年)

本発表では人体に悪影響を与えるホルムアルデヒドを室内より効率よく安全に除去するための方法を国内外の文献、実行例を中心に調査を行い、解決策を模索した。調査の結果、ホルムアルデヒドを除去する二酸化チタンを原材料とした光触媒に着目し、室内におけるホルムアルデヒドの除去のための光触媒コーティングやエアコンフィルターを使用した光触媒の活用や、生体融合型光触媒などを紹介・提案した。

PA-06

研究タイトル「魚類の消化管内における発光細菌の有無について」 優秀賞

神奈川県立神奈川総合産業高等学校 化学工学部
赤間翼さん(2年次)

本研究では、イカの体表や海水魚の消化器官に存在することが知られている発光細菌に着目し、海水魚の生態の違いよる発光細菌量の調査を行った。アジ、サバなど数種の海水魚の消化管内より摘出した内容物の懸濁液を寒天培地で培養し、発光したコロニーの観察をしたところ、発光細菌が多く確認されたのは、サバやイサキなどの甲殻類と小魚を主食にしている魚類だということが明らかになった。

優秀賞おめでとうございます
実験の性質上、多くの種類のサンプルが必要だったため、「いろいろな魚介類を購入したのでお金がかかってしまった」という。サンプル集めは研究につきものですが、大変ですよね…(編集部より)

PB-01

研究タイトル「矢部川の水質調査に関する研究」

湘南学院高等学校 国公立アドバンス・アドバンスコース
大江健琳さん(2年)、黒木志峰さん(2年)、田中悠希さん(2年)
宮澤希さん(2年)、鈴木心梨さん(2年)、木曽あおいさん(2年)

高校の近くを流れる矢部川は多くの工場が立ち並ぶ工業専用地域周辺を流れる河川であり、環境により矢部川の水質がどのような影響を受けているかを明らかにするため、発表者らは矢部川の水質調査を2021年より行っている。今回の研究では、矢部川9ヶ所についてパックテストで水質を調査し、採水地点の環境と関連性を調べた結果、工場排水や生活排水が矢部川の水質に大きな影響を及ぼしていることがわかった。

PB-02

研究タイトル「海藻標本作成時の色の変化に関する研究」

湘南学院高等学校 サイエンスコース
飯田愛子さん(1年)、勝目翔馬さん(1年)、千野咲空さん(1年)、平木隆太さん(1年)

海藻標本を作製する際において、ラミネートの使用によって起こる海藻の変色により標本としての機能が損なわれるという問題がある。本研究では、ラミネートの熱で変色が起こると推測し、試料へ塗料を付けることで熱伝導を抑えて海藻標本作成時の変色を防ぐ方法を検討した。今回の検討ではマニキュアを塗布した試料が変色、収縮が少なく、取り扱いも容易であった。この結果をもとに、試料数を増やし、さらなる検討を進める。

PB-03

研究タイトル「イカ体表から得られた海洋性発光細菌の菌種同定」 優秀賞

横須賀学院高等学校 理科学部
河内美月さん(2年)

発表者らが研究している海洋性発光細菌の菌種は先行研究によりPhotobacterium kishitaniiであると示唆されていたが、今回、さらなる確認のため発光細菌が必ず持つ発光関連遺伝子オペロンであるluxオペロン遺伝子間領域の一部を対象とした塩基配列解析を行い、菌種の同定を行った。実験の結果より、どの領域においても97%以上の相同率が確認されたことから、菌種はP.kishitaniiであると判定した。

優秀賞おめでとうございます
サンプルを得るためにマリンブロス培地という海洋生物用培地を使用し、350時間もの長時間、振盪培養したという。菌種同定へのたいへんな苦労が偲ばれます。(編集部より)

PB-04

研究タイトル「イネゲノムDNAを用いてサザンブロットハイブリダイゼーションを学ぶ」

横須賀学院高等学校 理科学部
貞廣宇保さん(1年)、渡辺大洋さん(1年)

シロガネヨシのケイ酸トランスポーター遺伝子の実験を行う際に有用な技術であるサザンブロットハイブリダイゼーション法の習得を目的として、イネのケイ酸トランスポーター遺伝子であるLsi-1を検出ターゲットにしたサザンハイブリダイゼーションを行った。結果として、実験サンプルからLsi-1の発現が確認され、実験方法に検討の余地は残るものの、技術の修得には成功した。

PB-05

研究タイトル「若者(中学1年生の12歳から25歳まで)がオーバードーズしてしまう背景には何があるかに関する研究」

関東学院六浦高等学校 小林美彩さん(2年)

近年問題になってきているオーバードーズ(薬の過剰摂取)の問題を調査し、減らせる取り組みを確立させることを目的とし、オーバードーズに関連したカウンセラーを対象にインタビュー調査を行った。調査結果より、オーバードーズが起こる背景にはいじめや家庭内暴力、人間関係に起因するささやかなきっかけがあることがわかった。オーバードーズをする人に共通して必要とされるのは「支え」であり、専用のサポート施設やカウンセリングサービスを作ることで減らしていけるのではないかと考えられる。

PC-01

研究タイトル「ヤマモモ(Myrica rubra Sieb. et.Zucc.)果汁の抗酸化作用に関する研究」

横須賀学院高等学校 理科学部
平井友陽さん(1年)

ヤマモモの果実は抗酸化作用を示すアントシアニンを豊富に含むものの、日持ちの悪さからほとんど市場に流通することはない。そこで本発表では、ヤマモモ果汁の食品、化粧品原材料の可能性を検討するため、凍結乾燥した果汁から得られた抽出物の抗酸化作用について検討を行った。DPPH法による抗酸化能の評価実験を行ったところ、ヤマモモ果汁は抗酸化能を示し、その抗酸化成分は水よりもエタノールに易溶であることがわかった。

PC-02

研究タイトル「培養細胞にヤマモモ(Myrica rubra Sieb. et.Zucc.)果汁が及ぼす影響について -特に培養細胞に対する効能解析を中心として-」

横須賀学院高等学校 池田愁平さん(3年)

老化や疾患の原因となる体内の活性酸素の除去を目的とし、本発表では抗酸化作用が確認されたヤマモモ果汁から得られた抽出物を培養細胞に添加し、抗酸化作用やストレス応答に関与する遺伝子SOD-1、Nrf2、p53遺伝子の発現量を評価することで、効能解析を試みた。実験結果よりサンプル内における活性酸素の有意な減少がみられたことからも、ヤマモモ抽出物からは抗酸化作用および生体防御に関与する効果の可能性が期待される。

PC-03

研究タイトル「青い卵の生産性向上に関する研究」 優秀賞

神奈川県立相原高等学校 畜産部(鶏プロジェクト)
稲毛駿さん(3年)、田村亜紀子さん(3年)、曾澤優奈さん(2年)、池航平さん(2年)、渡辺陽風さん(1年)

発表者らは、産卵率が低く、幻の卵と呼ばれるチリ原産の品種であるアローカナが生産する鶏卵「青い卵」の生産及び生産性の向上、また商品としての安定生産を目的に研究を行った。産卵率の低さを改善するため、アローカナの純粋種と実用鶏を掛け合わせた雑種を作出、育成し、産卵率の調査を行った。雑種作成により、青い卵の産卵率向上には成功したが、雑種の卵殻色は純粋種のものと大きく異なるため、鮮やかな青色を示す新たな雑種の作出の必要性が示唆された。

優秀賞おめでとうございます
本研究で開発された2種の青い卵は瞬く間に売り切れ、購入を希望する声が多数上がったそうです。研究結果が学校の直売所での販売会での実売に反映される点でも非常におもしろい研究。(編集部より)

PC-04

研究タイトル「サシバエを忌避する色と模様について」 優秀賞

神神奈川県立相原高等学校 畜産部(養牛班)
金子凛さん(3年)、鈴木希さん(3年)、下鳥友佑さん(2年)、嶌田里桜さん(1年)

サシバエは主に牛を吸血する昆虫であり、牛白血病などの媒介となる上、その駆除にも殺虫剤など多大なコストがかかり、畜産経営に甚大な影響を与えている。そこで発表者らはシマウマを吸血するサシバエが少ないことと先行研究を参考に、サシバエが忌避する色と模様についての研究を行った。牛へ縞模様を塗布する実験を行ったところ、無処理の牛と比較して、牛を吸血したサシバエの数がほぼ半減した。この結果から、サシバエは縞模様を嫌うということが示唆された。

優秀賞おめでとうございます
大きな牛の体に模様を描く大変さや、描いた模様が落ちるのを防いだりと、生きて動いている生物を対象とした実験ならではのエピソードもとても面白くお聴きしました。(編集部より)

PC-05

最優秀賞「ボラはなぜ跳ねるのか」
関東学院六浦高等学校の皆さんおめでとうございます

神奈川県立神奈川総合産業高等学校 化学工学部(2グループ)
横須賀学院高等学校 理科学部
神奈川県立相原高等学校 畜産部(2グループ)
優秀賞おめでとうございます

同日はポスターセッションのほか、横浜薬科大学の教員と大学院生による「薬学とサイエンス」シンポジウムおよび、化粧品やサプリメントのリーディング企業であるファンケル研究所の渡邉知倫氏による特別講演も行われ、たいへん充実した一日となりました。
またこの日は大学内で日本薬学会関東支部学術大会という、日本トップクラスの学術団体の学会も開催されており、なかなか体験できないアカデミックな雰囲気を感じ取れて刺激になったのではないでしょうか。
「ハマヤクサイエンス研究会」は今後も開催予定です。
これからも皆さんの熱意溢れる研究発表のエントリーを期待しています。

イラスト:Ayane

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