2024.02.26

きらりと光る魅力的な研究が今年も ~ 令和5年度横浜薬科大学主催 高校生理科系研究発表会

2024年2月2日、横浜薬科大学主催の高校生理科系研究発表会が開催されました。このイベントは横浜薬科大学薬学部の薬科学科(4年制)の卒業研究発表会と高校生の研究発表会のコラボレーション企画であり、今回で3回目となっています。
今年は昨年よりも発表数が大幅に増え、きらりと光る魅力的で面白い研究がたくさん発表されました。大学教諭や大学生と堂々と対等に議論する高校生たちの姿に明るい未来を感じました。
ここでは、発表者の研究内容を紹介します。

研究タイトル「日本の文化を科学実験を通して伝える 〜How to Make Karumeyaki~」
社会科学賞

東海大学菅生高等学校 自然科学部
髙橋更紗さん(2年)、彼ノ矢遥人さん(2年)、佐野陽一さん(1年)、西野悠介さん(1年)、倉内柊真さん(1年)、蜂谷依歩生さん(1年)

東海大学菅生高等学校 自然科学部に在籍する発表者らは、オーストラリアにあるBarker colleageからの「科学実験を通して日本の文化を伝えてほしい」という依頼に対して、日本独自の食品である「カルメ焼き」をテーマに、カルメ焼き作りにおける実験操作の最適化を行いました。カルメ焼きが味良くうまく膨張する最適な温度を検討するため、115℃(低温)、125℃(標準)、135℃(高温)で砂糖水溶液を熱し、見た目と味で比較しました。検討の結果、標準温度である125℃が最適であることがわかりました。
来日したBarker colleageの生徒たちと「カルメ焼き作り」で交流を行い、終始笑顔が溢れる楽しいイベントになったそうです。科学実験を通した国際交流として大変すばらしい実例ですね!

PS1

研究タイトル「短足ネコはしあわせなのか 〜短い足のかわいさと危うさ〜」 機能形態学賞

山脇学園高等学校
田中杏奈さん(1年)

人気のある猫種であるスコティッシュフォールドなどの短脚ネコは遺伝性疾患である骨軟異形症になりやすく、短命で運動能力が低い傾向にあることが分かっています。発表者はその傾向について身体的形状に一因があると考え、普通のネコと比較して、どの程度、股関節や肩関節に負荷が生じているのかを調べるため、ネコの基礎身体データの収集を行いました。普通ネコ10個体、短脚ネコ8個体の体重、体長、体高、前足の長さを測定した結果、短脚ネコは普通ネコよりも、体重、体長、前脚長とも小さく、体重も軽い傾向がみられました。短脚ネコは体の大きさに関わらず、足の長さについてはほぼ同じであることから、普通ネコよりも脚部への負担は大きいと考えられます。
今後、この計測データを元にunityや3Dプリンターで模型を製作し、構造的な面から解析を行う実験を進めていく予定らしく、とても楽しみです!

PS2

研究タイトル「海洋性発光バクテリアの単離 ~ジンドウイカ外套膜より~」 分子生物学賞

山脇学園高等学校
大脇愛未さん(1年)、笹岡日菜乃さん(1年)、栃澤ななさん(1年)

発表者らは、暗所で発光した卵焼きにぎり寿司から単離された発光細菌photobacterium属に強く興味を持ち、その生態や発光現象の生物学的な意義についての解明を目指して、研究を行いました。市販の生鮮イカ(ジンドウイカ、別名ヒイカLoliolus(Nipponololigo)japonica japonica)から発光細菌を単離し、継代による発光強度の変化を観察しました。培養開始から24時間後のイカの外套膜では肉眼で、継代1代目では写真でも肉眼でも発光を確認できたが、2代目以降では発光を確認できないという結果となりました。継代過程におけるコンタミネーションによる発光個体の減少や、気温や湿度などの外的要因からの発光条件の乱れなどが原因として考察されます。
設備が整っている実験施設での継続的なデータ計測が困難な中、非常に頑張って研究に取り組み、発表という形にした姿勢が素晴らしい発表でした。

PS3

研究タイトル「環境にやさしく、雑草をなくす 〜コーヒー豆のかすの除草効果について〜」
環境科学賞

山脇学園高等学校
茂木杏珠さん(1年)、大矢樹里さん(1年)

コーヒーは嗜好品として多くの人に親しまれている反面、それにより発生するコーヒー豆かす(以下コーヒーかす)の焼却処分が大量の二酸化炭素を放出する原因となっています。本研究ではコーヒーかすによって発生する二酸化炭素の削減を目的として、コーヒーかすを除草剤として二次利用できるか検討しました。コーヒーかすに除草効果があるのかを明らかにするために、シソ種子に対する「発芽抑制実験」、畑の植物に対する「成長抑制実験」を行い、それぞれ実験から、コーヒーかすにはシソに対する発芽抑制効果があること、植物(特にイネ科植物)に対する成長抑制効果があることがわかりました。
この実験を始めたきっかけが「コーヒーを飲むと背が伸びない」という言葉からだったようで、それを即座に「それが本当ならコーヒーには成長を妨げる成分があるのでは?」と研究テーマへ結び付けられるところに見事な発想力を感じました!

PS4

研究タイトル「市販されている水産物の中にマイクロプラスチックはあるのか」 公衆衛生学賞

山脇学園高等学校
杉本結さん(1年)、髙木結萌さん(1年)、富田リアーナさん(1年)

近年、マイクロプラスチックによる環境汚染が環境問題として注目を集めています。そこで発表者らは、身近な食品である海産物へマイクロプラスチックがどの程度影響を及ぼしているのか調査することを目的とし、量販店で購入できる魚の内臓や貝の可食部にマイクロプラスチックが混入しているかどうか確認する実験を行いました。数種類の魚や貝を洗浄、必要部分を切り出し、タンパク質部分を溶解、その後に残った固体を回収してFT-IRにかけました。実験結果としてポリプロピレンと似た波形は見られたが、それがプラスチックでるとは断定できませんでした。今後、サンプルの精製方法などをさらに検討していく予定です。
実験で苦労したのは「アサリを切り開くのが難しかった」ことだそうで、複雑な構造を持ち、ぬめりなどがある海産物サンプルの取り扱いの難しさが伝わってくる発表でした。

PS5

研究タイトル「「可愛くなりたい」は環境に悪い!?」 薬物解析学賞

山脇学園高等学校
濵中千聖さん(1年)、坂井彩果さん(1年)

日焼け止めに添加されている紫外線防止剤である紫外線吸収剤はサンゴの白化現象に関与するとされ、沖縄本島および周辺離島沿海で採取したサンゴ及びオニヒトデに含まれる紫外線吸収剤の検出を試みた報告などが存在するが、実際の生物への影響については議論があり、結論は出ていません。そこで発表者らは身近な都市河川である多摩川下流域をフィールドとして、水中に紫外線吸収剤がどの程度含まれるのか、先行研究より細かな周期でモニタリングし、検討を行いました。2023年11月に多摩川下流域から採水した試料を濃縮し、機器分析した結果、紫外線吸収剤は検出されませんでした。今後、実験方法の改善点を洗い出し、プロトコールの確立に向けて検討を進める予定です。
多摩川の流域が広範囲なので採水場所の選定に悩んだ話など、現地へ赴くフィールドワークならではの苦労話が聞けて、大変面白かったです。定期的な採水、頑張って!

PS6

研究タイトル「サウンドベジタブル」 生命科学賞

山脇学園高等学校
渡部真衣さん(1年)、一色優希さん(1年)

先行研究より、音楽を聞かせて植物を育てると、成長に影響が出ることが分かっています。本研究では、特定の周波数音のみを聞かせて植物を育てた場合の発芽率や成長、栄養素への影響の有無を調べ、①植物の成長を抑制させる周波数、②成長を促進させる周波数、③栄養素を高める周波数を明らかにすることを目的とし、実験を行いました。
クレソンの種各10粒に対し、それぞれにコントロール(音なし)、900Hz、18000Hzの3つの周波数音を流して生育し、発芽率を比較しました。900Hzの音を聞かせた植物の発芽率が一番高く、18000Hz の音を聞かせた植物の発芽率が一番低いという結果だったが、どの装置でも子葉の次の葉が出るまでは成長しませんでした。音以外の温度や光などの植物の成長に必要な生育条件が揃ってなかったことが影響した可能性が高いため、もう一度条件を見直し、再検討を行う予定です。
「モーツァルトとロックを聞かせるとモーツァルトのほうが作物が成長する」という先行研究から着想を得ており、この研究をうまくすすめて、音の除草剤や肥料を作ってみたいとのお話でした!応援しています。

PS7

研究タイトル「舞岡高校に広がる竹の有効活用について」 ライフサイエンス賞

神奈川県立舞岡高等学校 科学部
江場充月希さん、加納汰一さん、宮西駿伍さん、深澤隆哉さん、山下海吏さん

発表者らが在籍している神奈川県横浜市戸塚区にある県立舞岡高校は敷地のおよそ3分の1を占める竹林を有しています。今回の発表では、竹林整備の際に出る切り倒した竹を資源とし、有効利用することを目的として行った取り組みについて紹介しました。地域のサポートを受けながら「門松づくり」、「竹炭作り」を実施し、約15本の竹の活用に成功しました。特に竹炭づくりでは70kgの竹を10kgの竹炭にした結果、19,000LのCO₂削減につなげることができました。今後も活動を継続し、SDGs 15「陸の豊かさも守ろう」が掲げる自然環境の保全に繋げていくことを目指しています。
現在、科学部の知識を活用した竹の和紙作りにも挑戦中だそうです。部だけでなく、地域を巻き込んだ舞岡高校の竹活用プロジェクト「マイタケプロジェクト」も推進しており、今後の活躍が楽しみな取り組みでした!

PS8

研究タイトル「乳酸菌の繫殖能力の強弱と人体への影響の関連」 生体防御学賞

藤沢翔陵高等学校 科学部
小林真広さん、卜部瑞生さん、杉園仁來さん、菊池悠人さん、佐藤空和さん

最近の食品には複数の種類の乳酸菌が含まれているものが多く、「生きて腸まで届く乳酸菌」とうたわれている製品もあります。そこで、発表者らは食品に含まれる乳酸菌の繁殖性の強弱に着目し、乳酸菌それぞれの特徴や性質について確かめ、それが人体にどのように影響を与えるかを考察しました。乳酸菌が含まれている食品(乳酸飲料、ヨーグルト、漬物など)から遠心分離機で乳酸菌を分離させ、麦芽寒天培地で培養を行いました。結果として、乳酸菌の繁殖自体は確認できたものの、ほぼすべての培地でカビが繁殖し、乳酸菌の繁殖性やその強弱の比較をすることはできませんでした。今後はまず培地にカビが生えない実験法を確立し、目的に向けて研究を進めていく予定です。
実験の本題に入る以前に培地のカビの繁殖に悩まされて大変だったという科学部の皆さん…培養実験でコンタミネーションに悩む研究者はわりといますので、初手で実験あるあるまで辿り着いているのかも?これからですよ!がんばってください。

PS9

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