サイエンスの仕事の現場
2025.09.19
分析試験業務をこなす傍ら研究を続けることで知識と経験を拡げています
【第14回】
地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)瀬戸山央さんSetoyama Ou
食品の成分分析試験と研究開発を両立している仕事の現場を訪ねました。
今のお仕事を選んだきっかけを教えてください。
大学院を卒業する頃はリーマンショックの真っただ中で、就職活動には大変苦労しました。民間企業と並行して公務員も受験した結果、神奈川県の技術職として採用され、現在の神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)の前身である、神奈川県産業技術センターに配属されました。
当時は、配属先がどこになるか分からなかったので、「ここにいきたい!」と強く希望して入ったわけではないのですが、「大学院で培った技術を生かせる仕事がしたい」という思いがあったため、結果として今の仕事は、自分のキャリアプランに合致していました。
KISTECでの仕事内容について教えてください。

私は化学技術部の環境安全・バイオグループに所属していて、食品を主な対象とした分析や研究開発をしています。具体的には、企業からの依頼を受けて、新しいサプリメントや機能性食品の評価をしたり、開発のサポートをするのがメインの仕事です。
例えば、「血圧を下げる効果があるサプリメントを作ったんだけど、本当に効果があるか確かめてほしい」という依頼が来ると、私たちはその製品を分析し、評価した結果をお客様にお返しします。大手企業だと自社で設備を持っていることが多いのですが、中小企業だと専門的な設備が無い会社が多いので、私たちの技術や設備を生かして支援しています。多い時だと、年間で150件ほどの依頼を受けるので、かなりスピーディーに結果を返すことが求められます。
もちろん、依頼された試験だけでなく、自分たちでも研究を行っています。現在は、「抗糖化(こうとうか)」に関する研究を進めています。
抗糖化の研究とはどういうものですか?
多くの人が耳にする「酸化」と同じように、私たちの体では「糖化」という現象が起きます。これは、体内のタンパク質と糖が結びつくことで、老化や病気の原因となるものです。
これまでは、糖化を防ぐサプリメントはあまりありませんでした。そこで私は、味噌や野菜など身近な食品に、糖化を抑える効果がないか調べています。これは企業からの依頼ではなく、自らテーマを設定した研究です。将来的には、この研究で見つかった効果的な食品をメーカーに提案し、新商品として世に出すことを目指しています。

通常業務と研究を両立させるのは大変ではないですか?

確かに大変です。依頼試験が多いと、どうしてもそちらに時間を取られてしまうので、うまくバランスをとる必要があります。依頼された試験は、決まった手順で効率よく進めて、なるべく時間をかけないように工夫しています。
そのうえで、自分の研究にじっくり取り組む時間を確保するようにしています。というのも、研究を続けることは、単に新しい発見をするだけでなく、自分の知識や経験を広げることにつながるからです。そうやって得た新しい知識が、依頼された試験の評価にも生かせるので、研究と業務は互いに良い影響を与え合っていると考えています。
学生時代に学んでいてよかったことはありますか?
実は、高校も大学も、生物はあまり勉強していませんでした。工学系の分野に進んでいたので、力学や物理などを専門に学んでいたのです。しかし、今の仕事は生物や化学の知識が求められるので、働き始めてから一生懸命勉強しました。
でも、意外なことに、学生時代に学んだ物理や工学の知識が今の仕事に役立っている場面が多々あります。例えば、新しい分析装置を扱う時などは、物理の知識が生かされます。一見、関係ないと思っていたことが、後から役立つことがあるので、何でも勉強しておいてよかったなと感じています。
高校生へのメッセージをお願いします。
私自身、高校時代は決して成績が良かったわけではありません。どちらかというと、後ろから数えた方が早いぐらいの成績でした(笑)。しかし、大学に入ってから学びを深め、働きながら博士号も取得することができました。
だから、高校の成績は気にしなくても大丈夫です。それよりも大切なのは、「何かに興味を持ち続けること」です。すぐに何かに結びつかなくても、日々の生活の中で「これってどうしてこうなるんだろう?」と疑問に思ったり、気になることを頭の片隅に置いておく。その小さな興味が、いつか研究や仕事につながるきっかけになるかもしれません。
瀬戸山 央(せとやま・おう)
地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)
化学技術部 環境安全・バイオグループ 主任研究員
2010年 東京農業大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士前期課程修了 修士(農芸化学)
大学院卒業後、神奈川県の技術職員として採用。KISTECの前身である神奈川県産業技術センターに配属される。現在は食品を中心とした機能性評価や技術支援を担当している。特に、老化の原因とされる「糖化」を抑える食品の研究に力を入れており、その成果が評価され、論文賞やポスター賞などを受賞している。
2023年 博士(農学)(東京農業大学)取得

(取材実施:2025年8月)

地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所
(略称:KISTEC)
神奈川県が設立した公設試験研究機関。県内の中小企業を中心に、分析試験から、商品開発、事業化⽀援まで幅広いサポートを⾏う。また大学等の有望な研究シーズを企業等への技術移転などにつなげるプロジェクト研究も数多く手がけ、産業界のイノベーション創出を支援している。
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