2024.05.10

【研究室訪問】地球冷却微生物で温暖化から世界を救おう!
市民科学プロジェクト「地球冷却微生物を探せ」の活動を通して

東北大学大学院 生命科学研究科 土壌微生物学分野

大久保智司 特任助教インタビューSatoshi Ohkubo

大久保先生はどのような研究に取り組まれているのですか?

私たちの研究室では、土の中の微生物を利用して温室効果ガスを減らす研究をしています。一酸化二窒素(N₂O)という気体には二酸化炭素の約300倍の温室効果がありますが、その多くが土の中、特に農地の土壌から排出されます。土の中にはN₂Oを消去できる微生物が存在するのですが、そんな微生物を利用してN₂Oの排出を抑える技術を開発しています。現在、より強力な「N₂O消去微生物」を見つけ出すために、誰でも参加できる市民科学プロジェクト「地球冷却微生物を探せ」を行なっています。全国の方々にご協力いただき、日本中で土壌と空気を使った実験をしてもらっています。

市民科学プロジェクト「地球冷却微生物を探せ」とは、どんな活動ですか?

内閣府が主導する国家事業であるムーンショット型研究開発事業「資源循環の最適化による農地由来の温室効果ガスの排出削減」の一部として、市民科学プロジェクト「地球冷却微生物を探せ」を進めています。市民の皆様にご協力いただくのは「土探し」の部分です。日本中には様々な起源や歴史を持つ土が存在しますが、私たち研究者だけで調べつくすことはとてもできません。そこで、全国にお住まいの皆様に採取キットを配布し、様々な場所から土とその周辺の空気を収集いただいています。現在、2500個ものサンプルが集まり、大きな成果へ繋がっています。

大勢が参加する市民科学プロジェクトの運営はいかがですか?

最初は参加者を集めることに苦労していましたが、SNSを中心とした広報活動のおかげで徐々に増えてきています。「まず実験に触れてほしい、手を動かすということを経験してほしい」をコンセプトに実験内容を組んでいますので、今まで実験をしたことがない初心者の方でも気軽に参加しやすいと好評です。研究者だとどうしても、研究対象が明確に存在している決まった場所の土を集めがちで、そぐそこにある畑や庭などの「身近な場所の土」を採取することは実はあまりありません。本プロジェクトのおかげで、そのような身近な場所の土はもちろん、お墓の土や湖の水底の土など「意外と思いつかない」、「そんなところから採取できるの!?」という予想外のサンプルが皆さんのアイデアとともにぞくぞくと集まってきていて、届いたサンプルを確認するのが楽しみになっています。このような状況も様々な方に参加していただける大きなプロジェクトならではですね。

プロジェクトの目指している到達点は?

「地球冷却微生物の発見」が大きな目標ですが、それだけではありません。「土」に関してこのように大規模な収集を行った研究は他に類がなく、本プロジェクトのサンプルから得られたデータは非常に貴重なものとなります。よって、実験にご協力いただいた皆様全員のお名前を本プロジェクトの成果論文に協力者として記載させていただく予定です。また、今回得られたデータは本プロジェクトだけではなく、今後、他の研究にも活用させていただきます。市民と研究者で協力して制作する唯一無二の土壌データセットも本プロジェクトの到達点の1つです。

高校生へメッセージをお願いします。

「地球冷却微生物を探せ」プロジェクトは2025年2月までは土の収集を続ける予定となっており、まだまだ参加者を募集しています。是非、高校生の皆様にも実験に参加し、手を動かす体験をしていただきたいです。科学クラブなどで進めている研究がある場合は、本プロジェクトとのコラボレーションも可能ですので、ご興味がありましたら是非ご相談ください。
私たちと一緒に「Soil in a Bottle」に挑戦してみませんか?

「地球冷却微生物を探せ」プロジェクトに参加しませんか?

 詳しくはこちらから:https://dsoil.jp/cool-earth/lab/sib/

大久保 智司(おおくぼ・さとし)

東北大学大学院 生命科学研究科 特任助教

京都大学大学院 人間・環境学研究科 相関環境学専攻 博士後期課程 研究指導認定退学
博士(人間・環境学)(京都大学)
専門分野:ライフサイエンス・環境科学
趣味は読書とビールを飲むことです。特にビールに関しては、旅行に行った先でその土地の地ビールやクラフトビールを楽しんだりしています!

■研究室紹介
東北大学大学院 生命科学研究科 土壌微生物学分野


土の中には様々な能力をもった未知の微生物がまだまだたくさんいます。土壌微生物学分野では、土壌の中にいる微生物や植物と共生する微生物を対象とした研究を行なっています。南澤 究 特任教授がプロジェクトマネージャーをつとめるムーンショット型研究開発事業「資源循環の最適化による農地由来の温室効果ガスの排出削減」の目的は、土壌から放出される温室効果ガスN₂Oを微生物によって削減する方法を開発することです。新たな未知の微生物の探索や分離株の機能解析、農地での実証実験などを行なっています。

(取材実施 2024年3月)

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