2021.12.22

あのPCR検査に挑戦してみた ~サイエンス実習レポート

横須賀学院高校(神奈川県横須賀市)では高大連携講座を定期的に実施しており、さまざまな大学から講師を招いた特別講義を行っています。11月中旬、「いま話題のPCRを体験しよう!」と題した実習が開催されました。(担当教諭:飯淵興喜先生)

新型コロナウイルス感染症の感染拡大で世界中が不安に襲われた日々。感染を確かめる手法としての「PCR検査」はすっかりおなじみの言葉になりました。
実際に検査を受けた方も多いのではないでしょうか。

PCR検査ってそもそも一体何だろう?
それを体験できるのが今回の実習です。実際に“体質の異なるヒトのDNA”を使ってチャレンジしてみました。

遺伝子専門家の先生が来てくれました

今回の実習に参加した生徒は併設の中学生1名を加えた計16名。
講師として横浜薬科大学から薬学部薬科学科の川嶋剛教授が来てくださいました。川嶋教授の専門は分子生物学。遺伝子の専門家です。
そして同大学のエース研究者の先生方も生徒への指導サポートに参加してくれました。

PCR検査とは?

PCRとは、ポリメラーゼ連鎖反応の略です。簡単にいうと、DNAを短期間に大量に増やす方法です。

ステップ1

まずDNAのらせんをほどいて、“プライマー”と呼ばれる短いDNAの結合とDNA合成を繰り返すことで、調べるためのDNAを増やす(増幅)。

ステップ2

DNAのタイプを見極めるために、特定のDNAのみを切断する“制限酵素”を投入する(タイピング)。

ステップ3

DNAを制限酵素で切断したら、アガロースゲル電気泳動という手法で、その遺伝子がどのタイプなのかを見極める。

今回の実習の対象として使ったDNAは新型コロナウイルス…ではなく、ALDH2遺伝子(アルデヒド脱水素酵素遺伝子)というもの。
体の中にあるDNAのタイプを調べることで、その人が酒に強いか弱いかが分かります。

人間の体に約2万2000個存在すると言われている遺伝子のうち、ALDH 2はアルコールを代謝してできるアセトアルデヒドを酢酸に分解する酵素です。
つまり、この酵素をコードする遺伝子のタイプが分かれば、その人のアルコールを代謝(分解)能力が分かるわけです。
酒に酔いやすい体質なのかどうか、遺伝子の検査から知ることができます。

遺伝子の配列は“多型”という幾つかのタイプに分かれます。
わかりやすい例はA、B、AB、O型といった血液型。
これらも遺伝子のタイプによる差です。

今回は、実験用としてALDH 2遺伝子のタイプの異なるAさん、Bさん、Cさん(誰なんだろう…)の3人分のDNAが用意されました。
アルコール代謝の能力が違う3タイプです。

生徒たちは5つの班に分かれ、それぞれにDNAサンプルが割り当てられました。割り当てられたDNAがどのタイプなのか、これをPCR検査によって調べる探究型の実験です。

では、順を追ってみてみましょう。

ステップ1 PCR法で遺伝子を増幅!

(PCR反応溶液を調整します)

(PCRマスターミックス液をPCR装置にセット)

人間の細胞を構成するDNAは二重のらせん構造を持っています。
熱を加えたり、下げたりを繰り返すことで反応が起こり、DNAが増幅されます。

反応装置内で反応液の温度を93度に上げ、55度に下げ、72度に上げます。
この温度変化を1サイクルとして、nサイクル繰り返すとDNAは2のn乗ずつ増幅されていきます。

(装置の中で3段階の温度変化を繰り返すと、遺伝子が増幅していきます…)

ステップ2 遺伝子のタイピング~制限酵素によって変異DNAを切断

次に登場するのが「制限酵素」

ALDH 2遺伝子にはいくつかの塩基配列があり、この配列が正常か、異常かの違いでアルコール代謝能力が異なります。

「制限酵素」は、ある特定の配列を切断する性質を持った酵素です。
制限酵素の入ったマスターミックス液を、DNA溶液に加え、反応させると、DNAが切断されますが、その切れ方によって、その遺伝子がどのタイプなのかを見分けることができます。

(制限酵素を混入し、反応させます)

ステップ3 アガロースゲル電気泳動で遺伝子型を検出

制限酵素によって切断できたDNAはALDH 2遺伝子のうちアルコール分解ができるもの、できなかったものに分かれます。
それを見極める手法が「アガロースゲル電気泳動」

遺伝子のサンプルを電気泳動装置にセットしたアガロースゲルに添加。そこに通電させます。
DNAの2重らせんはマイナスに帯電しているため、通電させるとプラス極のほうに泳ぎ出します。
この泳動の早さを見ることで、元のALDH2遺伝子のタイプを検出することができるのです。

(サンプル液をゲルの上に上手に落とすにはコツが要る)

(通電すると遺伝子がゲルの中を移動していきます)

この実験によって、各班に割り当てられたタイプの異なる遺伝子を検出することができました。

実験を終えて

参加した生徒からは実際にPCR検査を体験できたことに満足した声が聞かれました。
また、実験の合間に行われた、川嶋先生による遺伝子にまつわる様々なトピックに皆さん興味津々。

  1. 遺伝子を操作することで変異が起きる(遺伝子操作によって生まれた手足の本数が違う昆虫やマウスの写真に釘付け!)
  2. 遺伝子情報から病気にかかるリスクが分かる
  3. 特に関心が高かったのが「浮気しやすくなる遺伝子」もあるというお話。そうだったのか…

どのような種類の遺伝物質が、どのような形質を発現するのか?もっと知りたいという感想もありました。
知れば知るほど奥が深い。大いに学びを深める機会になったようです。

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