2022.08.30

創薬イノベーションの研究施設を見学 ~静岡県立榛原高校

8月中旬、静岡県立榛原高等学校(静岡県牧之原市)の理数科クラス1年生39名が神奈川県川崎市のナノ医療イノベーションセンター(iCONM)に見学に訪れました。
iCONMは「世界中の人が自律的に健康になれるスマートライフケア社会の実現」を掲げて創薬・ヘルスケアの研究を行っている施設で、多数の大学や企業が入居しています。
榛原高等学校は静岡県教育委員会より「サイエンススクール」に指定されており、理数科は独自の講演の聴講や、大学・研究所訪問など特色のある教育プログラムを行っています。
今回の見学イベントもその一環として実施されました。

見学イベントではまず、iCONMのコミュニケーションマネージャーの島崎眞さんが薬を創る研究についての講義を行い、実際に研究所で行われてる創薬研究について解説しました。

iCONMで研究している“ナノマシン”とは?

いまや日本人の2人に1人ががんにかかる時代。
がんが進行してしまうと外科手術が困難になるため抗がん剤を使う薬物療法を行うことになる。しかし抗がん剤はがん細胞だけでなく正常細胞にまで影響し、副作用を起こしてしまうのが問題だ。
そこで開発が期待されるのが、がん細胞だけに薬を届ける技術“ナノマシン”だ。
正常組織の血管とがん組織の血管では血管にあいている穴の大きさが異なる。ナノマシンは、正常血管では漏出しないが、腫瘍血管では漏出できるため、がん組織だけに選択的に抗がん剤を届けることができる。また、ナノマシン内に薬剤を繋ぎとめているリンカーは酸性で切断されるように設計されている。正常細胞内は中性からアルカリ性であるのに対して、がん細胞内は酸性であるため、がん細胞内だけで抗がん剤が遊離できるようにデザインされている――

iCONMではこのナノマシンの開発を進めており、将来的にはこのナノマシンを体内に巡回させることで、がんの発見・診断・治療までを常に行ってしまうという“体内病院”の実現まで構想しています。

iCONMの施設見学へ

講義後はiCONMの施設内の見学へ。最先端の研究設備やシステム機器に生徒の皆さんもかなり興味を惹かれていました。
施設内では次のような設備を見学しました。

動物実験施設

実験のために動物が使われるのはかわいそうですが、試験管で作った薬をいきなり実用化して人間に投与することはできないため、現状では必要なことです。
しかし、いま全世界的には3Rと呼ばれる規制があり、

Replacement(本当に動物実験が必要か)

Reduction(できる限り実験に供する動物の数を減らしているか)

Refinement(できる限り苦しみの少ない実験法であるか)

この3つが掲げられています。

実験で命を落とす動物を減らすためにMRIやCTを積極的に活用し、将来的には動物実験を無くす方向で、それに代わる実験法が開発されています。

細胞実験施設

iCONMには高価で希少な共焦点レーザースキャン顕微鏡があります。電子顕微鏡では動画撮影ができないため、極小領域でがん細胞への作用を鮮明画像として記録できます。

インキュベーション施設

従業員が数名規模の資金の少ない企業でも、iCONMのシェアラボで機器を共同利用することで実験データを積み重ねることができます。起業に失敗しても損害を少なく抑えるようにできるため、多くの研究者のチャレンジに貢献しています。

mRNAワクチンの製造設

mRNAワクチンが製造される工程を解説。新型コロナウイルスワクチンを例に、なぜmRNAがワクチンとして使えるかを学びました。

有機合成施設

内部が陽圧となり外気中の微生物の影響を防ぐクリーンベンチとは異なり、内部が陰圧のドラフトチャンバーが並ぶ合成施設を見学しました。
「学校の理科の時間ではやったことがないので実際に有機化学合成の実験をしてみたい」という生徒も。

透過型電子顕微鏡

ツアー前のヒアリングでは、生徒の多くが電子顕微鏡を見るのを楽しみにしていました。
「電子顕微鏡を見るのが楽しみでした。思ったより小さくてびっくり」との声も。

研究施設見学を終えて

見学後の榛原高校の皆さんの感想

mRNAワクチンが意外と簡単にできると知って驚いた。今後、新しいウイルスが登場しても安心だと思った。

外国人の研究者があちらこちらにいて、国際的な研究所だと感じた。

研究者がそれぞれやりたい研究に集中していて、自分もやってみたいと興味を持った。

また引率した同校の教員からは、「科学研究の講義と併せ、稼働中のハイレベルな施設を見学できたことは生徒にとって大きな刺激になった」とコメントが寄せられました。

iCONMの立地する川崎臨海部には他にもヘルステック、バイオテックのベンチャー企業や公共研究施設が70ほど立ち並び、一帯は「殿町キングスカイフロント」と呼ばれています。
今回の見学会を受け入れたiCONMとしても、次の社会の担い手となる感受性が豊かな高校生に最先端の研究や優れた技術などに触れてもらうことで、憧れやワクワク間を感じてもらい、科学への興味や関心を高めてもらいたいと考えています。

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