2023.03.14

高校生によるサイエンス研究、今回も実り多い発表会に ~ 令和4年度横浜薬科大学主催理科系研究発表会

2月4日、横浜薬科大学主催の「理科系研究発表会」が開催されました。本イベントは昨年よりはじまった横浜薬科大学薬学部の薬科学科(4年制)の卒業研究発表会と高校生の研究発表会のコラボ企画であり、大学生の研究やプレゼンテーションを学びつつ、高校生自身も研究発表を行うという内容です。
今年は、東海大学菅生高等学校(東京都あきる野市)、国士舘高等学校(東京都世田谷区)の生徒たちが参加し、それぞれ行なった研究の成果について、ポスター発表を行いました。先輩である横浜薬科大学の大学生、審査員である大学教諭、そして同じ発表者である生徒同士で、研究に対する真摯で熱い討論が行われ、充実した経験になったのではないでしょうか。
ここでは、2校の生徒たちによる発表内容を紹介します。

研究タイトル「プラナリアの走性の優先度について(第一報)」 最優秀発生生物学賞

東海大学菅生高等学校 自然科学部
髙橋更紗さん(1年)、彼ノ矢遥人さん(1年)、佐々木悠さん(1年)

東海大学菅生高等学校 自然科学部に在籍する髙橋さん、彼ノ矢さん、佐々木さんは著しい再生能力と、負の光走性、負の重力走性を持つプラナリア(Dugesia japonica)に着目し、プラナリアの目の有無による光に対する反応とその光走性について研究を行いました。
プラナリアを切断し、目のある前側の個体、目のない後ろ側の個体に分けたサンプルと無処理の個体サンプルそれぞれに暗室でライトを当て、その反応の変化を観察しました。実験の結果、目のない後ろ側の個体サンプルも他の個体サンプルと同様に負の光走性を示したことから、プラナリアは目で光を感じ取っていないことが示唆されました。
今回の研究について、「温度という予想外のパラメーターが実験に影響を与えることがわかったので、基本的な環境を整えて実験を行っていきたい」と実験データから考察された研究への気づきを伺うことができました。走光性と重力走性の優先度の調査など実験デザインも綿密に組まれており、今後の活躍が期待されます。

S1

研究タイトル「ミジンコのふ化の最適条件の検討(第一報)」 最優秀発生生物学賞

東海大学菅生高等学校 自然科学部
松井一馬さん(2年)、砂﨑陽太さん(2年)、越智崇行さん(2年)、大渕優輝さん(2年)

東海大学菅生高等学校 自然科学部の松井さん、砂﨑さん、越智さん、大渕さんらは、水生生物の代表として多くの教科書に掲載されているミジンコのふ化の最適条件ついての研究を発表しました。本研究でミジンコがどのような環境であれば、早く生まれるのか、またどれだけ長期間生存可能なのかの検討を行いました。ゾウリムシによる先行研究から着想を得て、培養液としてお茶(生茶(キリン)、特茶(サントリー))の希釈液を使用し、ミジンコの卵のふ化状況、その後の生存数などの観察を行いました。実験結果より、ミジンコの生存数が多く、ふ化にかかった日数が最も少ないのは生茶の100倍希釈液であることがわかりました。
「ミジンコって可愛くない?」というスタートから、小さなミジンコの卵の扱いに苦労し、溶液を調整する器具の扱いに戸惑った研究の日々を素晴らしい結果にまとめあげており、さらなる成長が楽しみな発表でした。

S2

研究タイトル「イカダモの群体形成に関する研究」 最優秀環境科学賞

国士舘高等学校 科学研究会
太田智美さん(2年)

国士舘高等学校科学研究会の太田さんは池や水田などの淡水にすむ緑藻類の一種であるイカダモ(Scendesmus)が環境要因によって一定数の群体を形成する…その群体形成機構に着目し、研究を行いました。先行研究より、群体形成誘発の要因の1つとしてミジンコなどの動物性プランクトンが放出する情報化学物質(カイロモン)を感知すること、また、カイロモンは化学物質であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と類似した構造をもつ物質であることが知られています。今回の研究では、イカダモがどのような化学的環境下で群体形成を行うのか検討しました。実験結果より、ミジンコが生息、共存していた条件下、SDS溶液の条件下ではどちらでも群体形成がみられ、イカダモの群体形成能のおけるカイロモンとSDSの影響を確認することが出来ました。
「光学顕微鏡をのぞきながら、イカダモの単細胞、群体数を数えるのが大変だった」という太田さん、今後はSDSのどの構造部分がイカダモの群体形成能に影響を与えるか調べてみたいとのことで、次の発表が興味深いです。

S3

研究タイトル「アゾ化合物の合成と紫外可視吸収スペクトルの測定」 最優秀分析科学賞

国士舘高等学校 科学研究会
石田知良さん(2年)

国士舘高等学校 科学研究会の石田さんは工業用として多く使用されている合成染料であるアゾ化合物に着目し、研究を行いました。メチルオレンジ、メチルレッド、オレンジⅠ、オレンジⅡなどの分子構造が異なるアゾ化合物を合成し、骨格となるアゾベンゼン誘導体に電子吸引基や電子供与基などの置換基を導入することで吸収スペクトルがどのように変化するか、また、置換基の位置の違いがスペクトルにどのような影響をあたえるかの検討を行いました。実験結果より、アゾベンゼン誘導体に置換基を導入することにより紫外可視吸収スペクトルの長波長側へのシフトがみられ、導入により高い電荷移動性を持つようになることが示唆されました。また、オレンジⅠとオレンジⅡの測定結果より、OH基の置換位置によりスペクトル形状は異なるが、両分子における電子構造や電子遷移形式には大きな違いはないと考えられます。
「アゾ化合物を合成する過程で氷冷が必要な場面などがあり、合成系を確立するのがとても大変だった」という話で、その努力に見合う結果を伴った研究でした。

S4

研究タイトル「クリスタルバイオレット(CV)の退色反応について」 最優秀物理学賞

国士舘高等学校 科学研究会
島村真幸さん(2年)、趙基名さん(1年)

国士舘高等学校 科学研究会の島村さん、趙さんは、塗料などに使用されているクリスタルバイオレット(CV)の退色反応について研究発表を行いました。CVは水酸化物イオンの存在下ではクリスタルバイオレットカルビノール(CV-OH)を形成することで退色反応を示し、異なる溶媒環境下において行うとその反応速度を変化させることが知られています。本研究では、親水部の電荷の異なる2種類の界面活性剤(臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))の存在下におけるCVの退色反応速度の比較を行いました。実験より、退色反応速度はCTAB>no surfactant >SDSの順で大きくなるという結果が得られ、両溶媒下で起こったCVを中心とするミセル形成機序の違いが影響しているのではないかと考察されました。
「CVを取り扱う際、毒性があるので緊張した」という実験こぼれ話などもうかがうことができ、研究への真摯な思いが伝わる発表でした。

S5

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