2024.01.22

【イベントレポート】『かながわ・ゆめ・みらい2023』
ディスカッションの中から課題解決の糸口を探す!高校生が考える理工系の未来

2023年12月23日、神奈川県内の4つの高校(関東学院六浦・湘南学園・三浦学苑・横須賀学院)の生徒が主体となり、理工系の未来について考えるディスカッションイベント『かながわ・ゆめ・みらい』が開催されました。ここでは、医学や薬学、環境、化学など、理工系に関する9つの分野を設け、それぞれの課題や解決策などについて専門家らと共に議論を行いました。今回は、そのディスカッションの様子を一部ご紹介します。


会場となった関東学院大学 横浜・金沢八景キャンパス

医療

医療分野では、「子どもの臓器移植」をテーマに、子どもの臓器移植が進まない理由について医師などの専門家が解説しました。子どもの場合は、本人が臓器提供の意思表示をすることができないため家族の承認が必要になりますが、我が子の遺体を切ることを拒否する親が多いこと、また子どもが突然亡くなると虐待の疑いが発生することもあるそうで、その場合は臓器移植が行えないといったことも説明されました。その他にも、宗教観や倫理観など様々なことが背景にあり、子どもの臓器移植には高いハードルがあるという現状が共有されました。


薬学

薬学分野では、「薬についての講義」「抗がん剤」「薬物依存症」の3つのテーマでディスカッションが行われました。中でも「薬物依存症」では、依存症回復支援施設のスタッフが、自身の薬物中毒の経験も踏まえながら、依存症患者さんが抱える問題や抜け出すことが難しい理由について解説。薬物を使う目的の多くが「快楽の追求」ではなく「苦痛の緩和」であることや、薬物によって “不快”を“快”に変えられることを知ってしまうと簡単には抜け出せなくなるといったことなど、薬物依存のリアルな現状について理解を深めました。


建築

建築分野では「世界遺産×建築」を大きなテーマとして、問題提起から解決策まで議論を深めていきました。ファシリテーターを務めた関東学院六浦高校2年の岩倉千優さんは、世界遺産検定を取得するほど遺産に関心があるそうで、それだけに現在問題となっている「観光化に伴う遺産破壊」は見過ごせない課題であり、遺産破壊を止めるために自分たちにできることを参加者と共に模索しました。
ディスカッションでは、世界遺産が直面している課題を正しく理解してもらうために、遺産の魅力だけでなく、それを守ることの重要性も併せて発信すること。そして遺産の保護や修繕をしっかりと継続していくために、経済活動として回していくことの大切さも確認されました。


AI

AI分野でテーマに挙げられたのが「ロボットとAIの責任問題」「生成AIの規制をどこまでするか」「メタバースをこれからどう使っていくか」の3つ。昨年、流行語にもなった生成AIをはじめ、新しい技術に対していかにして上手く付き合っていくか、そのための方法について話し合いが行われました。例えば、メタバースに関しては、すでに地方自治体で導入されていたり、教育現場で活用することで不登校やハンデキャップのある人でも気軽に登校できるようになったりなど、上手く活用されている事例が紹介されました。一方、高い没入感を得られることから、トラウマを植えつけたり、洗脳したりすることもできてしまうため、どのような使い方をするかはこれからも考え続けていく必要があるとの認識が共有されました。


SDGs

様々な社会課題や環境問題に対する取り組みとして進められているSDGsですが、高校生たちからは「日常の中でSDGsに取り組んでいる実感がない」「国も本気で目標を達成しようとしている感じがしない」といった疑問の声も。そこでSDGs分野のディスカッションでは、関東学院大学特別栄誉教授で工学博士の本間英夫先生や、環境問題に深く関連する分野として服飾系の学校教師らも招き、「SDGsの良い点/悪い点」について話し合い、それを踏まえて「自分たちにとっての新しいSDGsを考える」ことを目指して議論を進めました。
高校生たちは、様々な意見を聞く中でSDGsがいかに自分たちに関係しているかという認識を深めたようで、今後どのような取り組みができるかを模索し、具体的な行動につながるきっかけとしました。


生物

生物セッションでは、
「馬とふれあうホースセラピー」
「昆虫と人との共生」
をテーマに、人が生物とはどうすればうまく共生していくことができるのかという課題に向き合い、それぞれ専門家を招いた講義を交えたセッションがおこなわれました。
ホースセラピーでは鎌倉で活動するNPO法人「人と馬のKAMAMMA」から講師を招き、人と馬の触れ合いの歴史から、馬は人間と意志疎通ができ、古代から人間社会に関わってきたこと、そして、馬と触れあうことによる癒やしや生きるための力となるホースセラピーについて学びました。


歴史

基本的に理系メインのイベントのなかにあって、唯一設定された「歴史」セッションでは三浦学苑普通科一学年特進コースのメンバー3名がファシリテーターとして進行。
「勝者によって消された日本史の数々から我々が学べることとは?」
「アジア・アフリカ諸国で植民地にされなかった国々はなぜ免れたのか?」
「今日の世界情勢を鑑み、現在の日本の防衛形態の課題点はあるのか?」
この3つの題材を掲げました。国際社会が激しく変動している現在、今日の日本の現状とも無関係ではなく、いままさに向き合うべきテーマとして来場者とともにディスカッションを繰り広げました。


宇宙

「宇宙ゴミを回収するにはどうすればいいか」
「銀河同士の重力がどうなっているのか」
「火星移住」
宇宙セッションではこれら3テーマについてディスカッションを行いました。
廃棄された人工衛星などの宇宙ゴミは深刻な問題となっています。参加者はこの問題について考え、意見を出し合いました。また、「銀河同士の重力」のセッションではJAXA宇宙科学研究所の山口弘悦准教授を招いたレクチャーも行われました。


歯科

歯科分野では、「歯周病」「虫歯」「健康な歯を保つためには」の3テーマについてディスカッションを行いました。
「歯周病」のセッションでは、最初に鶴見大学歯学部の細矢哲康教授が歯周病と全身疾患の関係などについて解説し、その上で、歯周病患者を減らすにはどうしたらいいか、それぞれが意見を出し合いました。参加者からは「早い段階から子どもに歯みがきの大切さを教えることが大切なので、各家庭に口の模型を配って親子で楽しみながら学べるようにするのはどうだろう」「口の中を照らすと歯垢がピカピカ光る特殊なライトなどがあれば、磨き残しが一目で分かって便利だと思う」など、自由な発想による新しいアイデアも多数生まれ、未来の歯周病対策のヒントにつながる有意義なディスカッションとなりました。



このイベントは前年まで三浦学苑高校が単独で実施していたものをスケールアップして4校合同の企画として実現したものです。
異なる学校の生徒同士が初めて連携し、オンラインでも連絡を取り合って準備を進め、無事に第1回をやり遂げることができました。
「かながわ・ゆめ・みらい」は次年度も継続開催する計画にあるそうで、今回の成功は今後に向けた大きな一歩となりました。

かながわ・ゆめ・みらい2023実行委員会の皆さん

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