2024.04.26

【レポート】第6回高校生サイエンス研究発表会2024 in横浜薬科大学
探究心にあふれた研究発表を紹介

3月中旬、第一薬科大学・日本薬科大学・横浜薬科大学の共催による「第6回高校生サイエンス研究発表会2024」が開催されました。全国から参加した高校生が各大学会場やオンラインで、日頃取り組んでいる科学研究の成果を発表しました。
ここでは3月20日に横浜薬科大学会場で開催されたポスター発表の模様を紹介します。今回は横浜市内から9組の高校生が参加しました。

研究タイトル「五色沼の色の秘密を探究する ~化学的性質について~」

神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校 総探(SSHスタディツアー)
高木葵さん(2年)、小川沙菜さん(2年)、濱田和優さん(2年)、東響生さん(2年)、荒田実咲さん(1年)、菅野那帆さん(1年)、栗原那奈さん(1年)、藤田美芽さん(1年)、藤田詩織さん(1年)、森山環さん(1年)

五色沼湖沼群とは磐梯山山頂北側にある様々な沼の総称であり、沼ごとに、エメラルドグリーン、コバルトブルーなど色が違って見えるのが特徴です。発表者らは沼の水質を調査し、五色沼湖沼群の沼の色の原因を、化学的性質と磐梯山の歴史の視点から解明することを目的に本研究を行いました。五色沼湖沼群10箇所での採水サンプルに対する各種実験(pH、電気伝導度、12種類のパックテスト)の結果、太陽光の入射によって特徴的な青色を呈色するケイ酸アルミニウムが湖沼のある一定の深さで粒子として偏在しており、沼の色へ影響を与えている可能性が示唆されました。
本研究はSSHのスタディツアーとして実施され、他にも鳥取砂丘や釧路湿原などの調査があったそうです。現地に赴くことで素晴らしい経験と研究成果が得られましたね!

A01

研究タイトル「水銀 ヒトとの関わり合い①」

横浜清風高等学校 授業科目(化学)
明平愛渚さん(2年)、平尾花さん(2年)

仏教校の生徒である発表者らは丹生都比売神社と空海が水銀に関わっていることから、水銀に興味を持ち、水銀の歴史と共に、水俣病の原因として知られるメチル水銀が経口摂取で生体内に取り込まれる仕組みについて調査しました。毒性を持つメチル水銀が生体内でメチル水銀-システイン結合体となったときに、メチオニン(必須アミノ酸)と似た構造をとることで、血液脳関門を通過してしまうという知見を文献から得ることができました。さらに、メチル水銀-システイン結合体やメチオニンを分子模型で実際に組んでみることで構造への理解をより深めることができました。
発表ポスターの方は科学的な知見が多く記載されていましたが、古代日本からの水銀の歴史についても非常に良く調べられていて、科学と文化の両方で非常に面白い調査ができていたと思います!

A02

研究タイトル「水銀 ヒトとの関わり合い②」

横浜清風高等学校 授業科目(化学・生物)
平尾花さん(2年)、明平愛渚さん(2年)

発表者らは身近にあった水銀廃棄の話から興味を持ち、水銀が地球環境の中で循環する仕組みの調査を行いました。調査の結果、水俣病の原因ともなった生体へ強い影響を及ぼすメチル水銀は自然界にも存在しており、食物連鎖を通して、貝や魚に取り込まれていることがわかりました。そして、その魚介類を通して、ヒトもメチル水銀を摂取しています。マグロなど食用頻度が高い魚類の水銀化合物含有量と、許容または推奨されている食用量を調査した今回の発表を通して、水銀は一定数量までは害にならないものの、生物濃縮による胎児への影響の可能性がある妊娠期間と妊娠前はメチル水銀を多く含む魚類の摂取量を調整し、場合によっては控えることも考慮に入れなければならないという結論に至りました。
メチル水銀とヒトとの関係について、日常の食品と密接した問題をとりあげ、一生活者として関心を寄せやすい内容となっていました。今後、発表者がいつも食べているマグロに含まれる水銀量の測定を横浜薬科大学へ依頼する予定だそうです。

A03

研究タイトル「ペットボトルの緑茶の茶カテキン類の殺菌作用を調べる」

神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校 化学生物部
山越健弘さん(2年)、古川朝陽さん(1年)、松本隼輝さん(1年)

アルコールによる消毒には肌の弱い人の手が荒れてしまうなどの弊害があり、発表者らは代替の消毒方法として、殺菌作用のあるカテキン類を含む緑茶に着目しました。本研究では、市販の緑茶に含まれるカテキン類の殺菌作用とカテキン類の量や時間による殺菌作用の差異を明らかにすることを目的として実験を行いました。①緑茶とエタノール、②カテキン量の異なる市販の緑茶3種、③水とカテキン量の異なる市販の緑茶3種について10、15秒指を入れたもの、①~③それぞれのサンプルについて指を介して寒天培地に付着させ、コロニーの培養状況を観察・比較しました。結果として、どの条件においても緑茶を付着させた寒天培地ではコロニー面積がコントロールよりも大幅に少なく、殺菌作用があることが確認されました。
発表者らの仮説通りにカテキン量と殺菌作用の関係がキレイに結果として反映されたのが嬉しかったとのこと。おーいお茶など身近な商品で殺菌作用が確認できたことも興味深いので、今後の研究の進捗に期待がたかまります!

B01

研究タイトル「高山植物の養分差による生育状況の違い」

神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校 化学生物部
青木優英さん(2年)、山越健弘さん(2年)、金子樹也さん(2年)、佐藤健心さん(2年)、丸山萬花さん(2年)

高山植物は高山帯の不安定で水分や養分が乏しい土壌という厳しい環境で生育しています。本研究では高山植物が地上の植物より栄養の少ない状況に耐えやすいことを証明するため、土壌の養分量の変化が高山植物キバナシャクナゲRhododendron aureumの生育にどのような影響を及ぼすかを検証しました。養分量の確認・調整をした土にキバナシャクナゲの苗を植え生育過程を観察する実験を行いましたが、すべての条件で枯れてしまいました。原因としては、サンプルとして平地では生育自体が困難な高山植物を選択してしまったためだと考えられます。本テーマについては、生育しやすい植物を選び直し、再度挑戦する予定です。
そもそも植物を育てること自体に失敗してしまった、高山植物のお世話は難易度が高い…との感想をいただきました。気持ちを切り替えて、トライ&エラーで次に挑戦していきましょう!

B02

研究タイトル「ハエトリグサの根の成長と植え込み材の関係」

神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校 化学生物部
髙橋千穂子さん(2年)、鬼嶋葵さん(1年)、田中栞さん(1年)、長沼凛さん(1年)

ハエトリグサDionaea muscipulaは食虫植物であり、観葉植物として人気も高いが、栽培方法の誤りから枯らしてしまうことが多く見られます。本研究では、ハエトリグサの適切な根の管理方法の確立し、継続的な栽培を目指しました。根の管理方法による影響が特に顕著である植え替え後のハエトリグサを、各給水方法(水苔、植物用ジェルボール、スポンジ、速乾スポンジ、綿)で生育した場合の根の本数と長さを記録・比較しました。結果として、水苔に植えて腰水にし、自生地に近い環境を再現することで、ハエトリグサの根の成長に適した栽培ができることがわかりました。
観葉植物として人気のあるハエトリグサが枯れやすく、管理が困難であること自体が意外で、面白かったです。たくさんの試行錯誤がみられ、粘り強い研究への姿勢が感じ取れました。

B03

研究タイトル「海浜植物ハマボウフウの分散力調査」

神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校 化学生物部
菱沼花帆さん(2年)、石井杏奈さん(2年)、黒田茜さん(2年)、西井緑さん(2年)

海浜植物であるハマボウフウGlehnia littoralisは主に海流により散布し、その種子は2ヶ月間海水に浮き続けることができ、発芽率は海水に浮かせていない種子と比べて有意に高いとされています(澤田・津田 2005 )。本研究では、より詳しくハマボウフウの分散力を評価しました。0~5ヶ月の海水浸漬を行い、浸漬後の種子を発根させる実験、一定期間水道水または人工海水に浸漬させたハマボウフウの種子を塩濃度の異なる人工海水に浮かべ、浮いている種子の個数を調べる実験の2つの検討を行いました。実験の結果より、種子は5ヶ月間、海水に浮くことがわかり、真水よりも海水に浮きやすいため、ハマフウボウは海流散布に向いていることが示唆されました。
昨年の本研究発表会で発表したテーマを受け継いだ新たな研究について、今年も取材できてとても嬉しくなりました。これからもハマフウボウへの恋…もとい、研究の続報を期待しています!

C01

研究タイトル「水質比較による横浜市の水の改善点究明」

神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校 科学生物部
岩本芙羽花さん(2年)

本研究では、横浜市水道局の水道水の水質に関する改善点を挙げるために、2つの調査を行いました。1つ目の調査では、横浜市水道局により公表されている、それぞれ水源が異なる市内三か所の浄水場での浄水処理直前の原水と浄水処理直後の浄水の水質データについて分析を行いました。その結果より、かび臭原因物質を産生する藍藻類を減らすこと、富栄養化を警戒すること、有機物流入を監視することなどの各浄水場の水道水の水源における改善点が挙げられました。2つ目の調査では、有機物流入が課題である上述の水源に赴き、取水堰から上流へ数キロずつ遡った4地点にてパックテストを行い、河川の有機物含有濃度を測定ました。結果として、特定の区間で河川の有機物含有量が上昇したことが読み取れた為、その区間内での生活排水等による河川への有機物流入を注視していくべきだと考えられます。
美味しい水と環境を守りたい!という真摯な思いが伝わってくる素晴らしい研究です。社会的意義も非常にある内容なので、もっといろいろな学会で発表してほしい!

C02

研究タイトル「月の高度と色の関係について」

神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校 地学部
千本木玲季さん(2年)

虹は太陽高度が低くなるにつれて全体的に暗く赤みがかります (藤原ら 2009 ) が、これは太陽光が大気を通過する距離と光の減衰率の影響によるものだと考えられます。発表者は月も太陽と同様に高度が低くなると赤みがかるという仮説を立て、月の高度と色の相関関係について調査を行いました。2023年8月31日〜12月28日の期間、合計50枚の月の写真を撮影し、これらの写真について、月の高度と色相、月の高度と彩度の2通りの相関関係を分析しました。調査の結果、月の高度が低くなると色相の値が小さく、彩度の値が大きくなりました。以上の結果から、月の高度が低くなると、月が赤くなり色が濃く見えることが示唆されました。
研究テーマへの着眼点、実行力…研究者としての資質が光るとても素晴らしい研究でした。改善点もはっきりしており、今後の研究の進捗が楽しみです。

C03

また、この日は横浜薬科大学薬物治療学研究室所属の学部生による研究発表も行なわれました。高校生たちも大学教員や大学生からのアドバイス受けたり、他の発表者と研究について意見を交わすなど貴重な交流の機会となりました。
※学年の表記は発表時のものです

今回発表に参加した高等学校


研究発表会を主催した横浜薬科大学

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