2024.09.30

【研究室訪問】「救えるものはすべて救いたい」
-病原因子の作用機序解明による抗菌薬に頼らない治療を目指して-

横浜薬科大学 感染予防学研究室

越智定幸教授インタビューSadayuki Ochi

感染予防学研究室ではどのような研究に取り組まれているのですか?

病気を引き起こす微生物は、巧妙な手口を使ってヒトの組織や細胞の平常機能を撹乱することで感染し、場合によって我々の生体に様々な症状を発現させます。私たちの研究室では、どのようにして病原微生物が私たちの体に感染をして、どのような手口を使って症状を引き起こしているのかということを調べています。バイ菌の場合で説明をしますと、病原因子と呼ばれる、私たちの体に悪さをする分子を放出して、それらが私たちの体の中で悪さをするのですが、この病原因子がどのようにしてバイ菌によってつくられ、私たちの組織や細胞にどのような機序で作用して悪さをするのかを調べています。

それらの研究は社会的にどのようなメリットがあるのでしょうか?

現在、菌が原因で起こる病気の治療の多くには、抗生物質を含む抗菌薬が多用されています。大きな効果を示す一方で、体の抵抗力の弱い子供やお年寄りには使用できない場合や、薬剤への耐性菌が出た場合には使用ができなくなるなどの制限もあり、抗菌薬だけでは全ての人を救うことはできません。
それを受けて、私は病気がなぜ起こるのかの根本的な部分である「菌による発病のメカニズム」を科学的に解明することにより、抗菌薬を使うことができない人たちが別の有効な治療法を選択できる未来にしたいと考えています。
「救えるものは全員救いたい」「目の前にある未来ある若い命を大切にしたい」、そのような気持ちを胸に研究に臨んでいます。

研究を志す高校生へメッセージをお願いします。

みなさんにはこれから先、とにかくたくさんの「良い出会い」を経験してほしい。私自身が中学生の時、大学生の時…その時々で素晴らしい方々に出会い、影響を受けることで人生を変えてきました。良い出会いを得るために、自分から一歩踏み出す大切さをなるべく早い段階で気づいてほしいと思っています。

越智 定幸(おち・さだゆき)

横浜薬科大学 薬学部 教授

最終学歴:徳島文理大学薬学研究科 薬学専攻博士課程修了 博士(薬学)
専門分野:微生物学、臨床微生物学、感染症学、感染症治療学
趣味は「バトミントンやテニスにローラースケートとスポーツで体を動かすことが好きです!…と言いたいところですが、最近は若い頃と現在の体の動きのギャップに思うところがあり、スポーツ観戦が趣味ということにしようか悩んでいます」(笑)





「何事にも興味をもって選択肢を広げていきたい」-研究を通して、苦手なことへの向き合い方を学ぶ-

研究室所属の学生にもお話を伺いました。

赤田 日菜多さんHinata Akada

いま取り組んでいる研究・実験内容を教えてください

私は「病原性細菌であるエロモナス菌のプロテアーゼ産生機序」について研究を行っています。エロモナス菌は河川や湖沼などの水環境に住んでいて、私達の体に侵入すると、食中毒や組織・細胞破壊といった悪さをするのですが、どのようにして病気を起こすのか、その機構は良く分かっていません。そして、このエロモナス菌が作るタンパク質分解酵素は、発病の一翼を担っていると考えられています。私はこれらの現象に関わっているエロモナス菌がつくるタンパク質分解酵素の産生スイッチのオン/オフがどういった機序で調整されているのかを遺伝子操作の技術を利用して調べています。

なぜ、感染予防学研究室を選びましたか?

この研究室の髙橋先生の講義が面白かったことがとても印象に残っていて、そのまま、感染予防学研究室を所属研究室へ選びました。

研究生活はどうですか?

とにかく、実験が楽しいです。想定した結果を目指して、手を動かして実験をおこない、データを重ねていくことにやりがいを感じています。論文を読んだり、調べたりすることはあまり得意ではありませんでしたが、研究を通して、学術的な部分も含めた「考える力」も鍛えられています。越智先生をはじめとした研究室の先生方から優しく的確なご指導をいただき、やる気を持って楽しく研究を続けています。

研究を志す高校生へメッセージをお願いします。

何事にも興味を持って挑戦して欲しいです。私は大学生になってからも将来の進路について悩む時もありましたが、大学の実習などでいろいろなことに興味を持って接していくうちに、選択肢が広がりました。苦手なことに対しても、最初から避けたりせず、興味を持ってひとまず取り組んでみることも大切なことだと思います。

赤田 日菜多 (あかだ・ひなた)

横浜薬科大学 薬学部 臨床薬学科 感染予防学研究室

研究テーマ:エロモナス菌のプロテアーゼ産生機序の解明
2023年8月から研究をスタートさせ、研究生活2ヶ月目(取材時)
趣味はパズル。休日はいろいろな1000ピースパズルを楽しんでいます。完成したパズルは実家に飾ってあります!「1つのことをコツコツ積み上げていくのが得意」

■研究室紹介
横浜薬科大学 感染予防学研究室


微生物の生存・生育・感染に関する基礎研究から創薬標的分子を探索する
薬物耐性微生物に対しては、抗菌薬治療での制限から、治療難度が高くなることが少なくありません。そのため、抗菌薬以外の治療選択肢を確立することは重要です。我々の研究室では、病原微生物感染症制御のための新たな予防・治療戦略の確立を目指し、適正治療の早期プランニングに不可欠な耐性菌迅速検出法、そして、病態形成における微生物病原因子(毒素やエフェクター)の作用機序について研究を行っています。また、研究室での学生は、よく遊びよく学べをモットーとして、成長する自身を楽しみながら卒業研究に取り組んでいます。

(取材実施 2023年10月)

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