2021.09.22

大学は専門技術だけを得る場所ではなく、学ぶことの楽しさを知る場所

【第2回】

横須賀学院中学・高等学校
理科教諭・科学教育センター長 
飯淵興喜先生

理系学生の進学・就職について最近の傾向やアドバイスを伺うコーナー。
第2回目は横須賀学院高校で生物を教えている飯淵興喜先生に進学先を選ぶときに必要なことを教えてもらいました。

進路の傾向について

コロナの影響によって高校生や保護者の方の意識が大きく変わりつつあると感じています。

コロナ前は、漠然とした将来設計のもとに進路選択をする生徒も見られ、「国際」や「コミュニケーション」などを冠した学部などに比較的人気が集まっていました。しかし現在は、卒業後に安定した職業生活を送るうえで有利で手堅い資格が取得できる学部・学科への志向が強くなっていると感じます。

データサイエンス系や情報系、建築系の学部・学科などの人気が高まっているのはそのあらわれです。また、専門的な技術を身に付けて、社会に貢献したいという瑞々しい願いのもと医療系専門職への進路を希望するといったケースも少なくありません。医学・歯学・薬学・看護を含む保健医療系の学部・学科の人気は引き続き高いものが有ります。

生徒からの悩みや相談

多くの高校では、2年次以降文系に進むか理系に進むかを1年生後半で問われます。半年前まで高校受験生だったのに、いきなり自分の適性や進学先を問われ、困っている…といった相談は少なくありません。また、自分がやりたいこと、深めてみたいことがどの学部につながるのかが見通しが立たない、という悩みも多いですね。そのため、その時点での得意教科のみを判断材料として、とりあえず大規模な大学や、伝統的と考えられている学部を選ぶ傾向が一部にはあります。

一方、理系はその見通しは立ちやすいのですが、やや思い込みが強い印象があります。例えば、「リハビリ=理学療法士」、「薬学=薬剤師」、「設計=建築士」のようにイメージが固定されていることがあるので、教師や親など周囲の大人が視野を広げるよう具体的に助言する必要があります。

ところで、進路選択の際に大人から「あなたの好きにしていいよ」と言われるのは、生徒にとってとても困る言葉です。一見、子ども本位のようですが、生徒によっては質問に質問で応じられているように捉えています。また、その言葉の後に時々「でもね…」と大人の本音が続くことを生徒は見抜いています。今の時代、大人も不透明な社会状況を前に、我が子に失敗させられないという気負いや焦りを感じていることを見抜いているからこそ、大人の顔色を窺いながら希望進路を口にしていることもあるのです。

進路に関する悩みや相談に関わることとは、一つの人生の転機を前に抱く不安に共感しつつ、大人と子どもが気持ちを通わせるお手伝いをすることだと思っています。

進路選択の際に注意しておきたいこと

「何のために、どこで、どのように働くか」が問われる時代ですが、大学を単に資格取得の場所と考えるのは間違いです。そもそも、資格取得だけを考えるなら専門学校の方が効率がいいかもしれません。しかし、一つの専門技術には、膨大で広い蓄積や周縁があり、複眼的なものの見方や考え方を身に付けるためには、一見無駄に見えるこれらを無視することはできません。そういった無駄の部分を私たちは「教養」と呼んできたのではないでしょうか。大学は、単に何かができるようになるだけでなく、「教養」に触れ、生涯学び続ける姿勢や学ぶことの楽しさ、知的な興奮を得る場所でもあります。だからこそ、具体的な進学先の決定においては、「知的に充実した数年間を送ることができる場所かどうか」を基準として選んでほしいと思っています。

高校生へのメッセージ

時節柄難しいかもしれませんが、知名度や偏差値だけで大学を選ぶのではなく、なるべく大学に足を運んでみましょう。

大学は主体的に学ぶ場所です。だからこそ自分がキャンパスの一員になっていることがイメージできるかが非常に重要です。「この大学は、私を呼んでいるかもしれない」なんていう直感が意外に正確で、受験勉強の励みになったりするものですよ。

今回お話を伺ったのは
横須賀学院中学・高等学校
理科教諭・科学教育センター長 飯淵興喜先生

横須賀学院ホームページ

この記事をシェア!

▲