サイエンスの仕事の現場
2021.06.30
薬を安心して服用していただくため、安全性をプロファイルする研究をしています
【第1回】
あすか製薬株式会社羽者家 宝さんTakara Hajake
多様多彩な理系のお仕事を紹介します。
現在の仕事を選んだきっかけを教えてください。
大学3年の時に友達に誘われ、学会が主催するサマースクールに参加したときのことです。大学院生と教授が対等に意見交換する姿を見て、教授さえ正解がわからない未知のことを解明することに興味を持ち、大学院への進学を決めました。大学院時代は植物に含まれる核酸に注目し、ウイルスに対する効果や免疫疾患に対する治療効果などについて明らかにしました。
製薬企業を選んだ理由は、社会に貢献できると考えたからです。自分が携わった医薬品で多くの人の健康に貢献できることってとてもすばらしいことですよね。もともと課題を抽出してそれに対する解決策を考えることが好きな私にとってうってつけの仕事だと思いました。
現在の仕事の内容を教えてください。
私が所属している部署は、医薬品の安全性に関する研究をしています。簡単に言うと、新しい薬が人体にどんな悪さをするか、ということを調べ、安全に服用できる用量を探索します。その中でも私は、主に妊婦さんが薬を飲んだ時の胎児への影響や生殖能への影響についての研究を専門にしています。
安全性研究は、薬の候補品を絞り込む段階から上市するまで多岐に渡ります。薬の候補品を選ぶ段階では、細胞や動物を使ってどんな悪影響があるのかを調べ、候補品を選定する際に必要なエビデンスを収集します。他の部署では、品質や有効性についても調べ、最終的に総合的な判断のもと、薬の候補品を特定します。医薬品の開発は期間も長く、莫大な資金も必要になります。開発のスタート段階で、ふるいをかけることは、開発を成功させるためにとても重要なことなのです。臨床試験前には、薬の候補品の安全性をさらに研究します。臨床試験は、患者様や健康な方に協力していただき、医薬品の効果や副作用などを調べる試験です。患者様に投与する用量よりずっと高い用量を動物に投与し、ほとんど全ての臓器を対象として、どのような毒性リスクがあるかを調べます。得られた結果から、ヒトと動物の生体反応メカニズムや用量の違いを考え、患者様が安全に使用できる用量を予測します。その後、臨床試験で安全性を確認しながら、開発が進められていきます。患者様に安全なお薬をお届けることをモットーとして、研究をしています。
仕事の魅力を教えてください。
製薬会社では、薬理作用の標的を見つけ、その効果を検証する研究や、標的に作用する薬を創ったりする研究をイメージしやすいと思います。しかし、当然ながら薬の品質と安全性に関する研究も重要です。患者様の健康を助ける薬で重大な副作用が起こることは許されません。やりがいと見落としがないように責任を感じながら研究しています。
また、体への影響は一つではありません。むしろ複数であることがほとんどです。それらの課題を一つひとつ解決していくこともこの研究の魅力です。時には副作用のメカニズムを利用して、新しい治療薬の開発につなげていくこともあります。安全性の研究は奥が深いですね。
職場環境について教えてください。
研究職と言うと、夜遅くまで仕事をしているというイメージがありますが、そんなことはありません。特に弊社は女性へのサポート体制が充実しているので、子育てしながら働いている人もいますし、出産・育児がきっかけで研究をあきらめるということもありません。
学生の皆さんへメッセージをお願いします。
研究職は考える力が大切です。また、結果がうまくいかないことも多いですね。研究職を目指す方は何事にもあきらめず、いつまでも挑戦する気持ちをもってほしいですね。
羽者家 宝 (はじゃけ・たから)
あすか製薬株式会社
創薬研究本部 薬物動態・安全性研究部安全性研究課に所属する研究員
生命科学博士
立命館大学生命科学部卒業後、京都大学大学院生命科学研究科に進学し、ウイルスに対する免疫応答のメカニズムなどの研究をしていた。2019年に博士号取得(生命科学)。2018年にあすか製薬株式会社に入社。候補薬や臨床試験前の医薬品の安全性研究に従事する。趣味は動物園や美術館巡り、ライブに行くこと。
(取材実施 2021年5月)
あすか製薬株式会社
内科、産婦人科、泌尿器科を基軸とし、健康への貢献度が高い製品の開発に取り組んでいる製薬企業。2020年、オープンイノベーションをより一層推進するため、研究拠点を「湘南ヘルスイノベーションパーク」に全面移転した。
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