2024.03.01

【研究室訪問】漢方薬の知見と伝統を活かし、新たな創薬の応用へ発展させていきたい

横浜薬科大学 漢方薬物学研究室

喩静教授インタビューYu Jing

-アンチエイジング効果や美容分野への応用も。漢方薬によるライフスタイルのトータルコーディネートへ-

喩教授はどのような研究に取り組まれているのですか?

漢方薬物学研究室では、漢方薬に関して、基礎研究から臨床データ解析まで幅広い領域にわたった研究を行っています。代表的な研究として、JADER(医薬品副作用データベース)などの医薬ビックデータを活用し、漢方薬が臨床で応用実態、また副作用などの有害事象の調査、リスクファクター評価などを行います。
漢方薬の薬理作用解明には、統合計算化学システムMOE(Molecular Operating Environment)を活用した分子ドッキングシミュレーション手法やKEGG、GOのシグナル伝達経路解析を利用し、最新の情報解析技術とバイオインフォマティクス解析による漢方薬の薬理作用や作用機序について検討しています。
基礎研究に関しては漢方薬のアンチエイジング効果や、美容分野への応用に関する研究も行っています。当研究室の所属学生には漢方薬の知識や技能だけではなく、漢方薬に関連する研究スキルについても身に着けることを目指しています。

それらの研究は社会的にどのようなメリットがあるのでしょうか?

漢方薬は「安全に服用できる」「天然由来なので長期間服用しても問題ない」と言われてきましたが、近年、偽アルドステロン症など漢方薬の材料としてよく使用されている甘草(かんぞう)の副作用による影響が問題視されています。漢方薬による副作用を取りまとめた研究がまだまだ少ない状況で、西洋医学的な治療と組み合わせることも増えてきていますが、患者の体質など東洋医学的な理論を持たないまま使用してもうまく効果を発揮することはできません。私たちの研究結果から発信される正しい漢方薬の効能・知識は病気の治療だけでなく、未病からの予防医学、健康維持など、人々のライフスタイルのトータルコーディネートに有効です。

研究を志す高校生へメッセージをお願いします。

日進月歩、先端技術は常に向上し、未来へ進んでいます。しかし、前を見るだけではなく、我々が今まで歩んできた足跡である伝統の技術や知識の中からも私たちが学ぶべきことはまだまだたくさんあります。現代は様々な情報で溢れ、その取捨選択ひとつをとっても、メディアなどに惑わされ、偏見を持ちやすくなってきています。そんな状況に陥らない様に、しっかりと自分の頭で考える習慣をつけて、いろいろなことにチャレンジしてほしいです。

喩 静(Yu Jing)

横浜薬科大学 薬学部 教授

最終学歴 東京大学大学院 医学系研究科 医学博士課程修了
医学博士
専門分野:東洋医学、加齢医学
趣味は博物館や美術館を巡り、歴史から薬学を感じることです。植物の観察も好きで、研究室の学生たちと大学近くの畑に生薬の材料となる植物を見せてもらいに行くこともあります。「漢方薬って身近なところにたくさんあるのですよ」。





「人の健康に役立つ研究がしたい」-外見と気持ち、両方にアプローチする美白剤の研究を通して-

喩教授の研究室に所属している学生にお話を伺いました。

佐藤 美紅さんMiku Sato

いま取り組んでいる研究・実験内容を教えてください

私はヒトの肌の美容、特に肌のシミの原因となるメラニンを生成する酵素やそれに関連するタンパク質について研究を行っています。一般的な美白剤にはメラニン生成酵素の阻害物質が用いられていますが、私はメラニン生成酵素の遺伝子発現を制御する転写因子について解析し、これまでとは異なる作用点をもつ美白剤の開発を目指しています。
美白剤をはじめとした化粧品はヒトの外見を美しく見せるだけではなく、前向きな気持ちにさせる効果があります。この観点から、人々の生活の質の維持・向上に繋がるよう、卒業研究を通して貢献していきたいと思っています。

なぜ、漢方薬物学研究室を選びましたか?

高校生の時から「人の健康に役立つ研究をしたい」と考えて進路を選択したこともあって、漢方薬物学研究室の肌の美容関係の研究テーマに興味を持ち、所属研究室として選びました。

研究生活はどうですか?

新型コロナウイルス感染症の影響で、授業での実験実習を受けることができず、研究室に配属されてから実験器具をはじめて扱うことになったので、最初はとても緊張しました。さらに、研究で取り扱っている細胞の培養がとても難しく、試行錯誤の毎日でした。今では実験にも慣れてきて、関連論文を読み、先生方と研究のディスカッションに励む研究生活はとても楽しく、やりがいがあります。

高校生へメッセージをお願いします。

私はまず「目の前の課題に取り組む」ということを推奨していきたいです。当たり前だと思われるかもしれませんが、課題を達成するために出てくる疑問などにその場ですぐに対応し、先延ばしにしないことがとても大事だと思っています。そうやって、少しずつやり遂げていくことの積み重ねが、未来の自分へ必ず活かされていきます。

佐藤美紅 (さとう・みく)

横浜薬科大学 薬学部薬科学科 4年 漢方薬物学研究室

研究テーマ:メラノジェネシス因子を標的とした新規美白剤の開発
アウトソーシング系の研究職に内定しており、今後も研究に関連する業務を続けていきます。
趣味は映画やドラマ鑑賞です。ホラー以外は何でも観ます。音楽のライブも好きで、遠方でもちょくちょく参加しています。「映画館やライブは1人でも楽しめる派です!」

■研究室紹介
横浜薬科大学 漢方薬物学研究室


「AI時代における漢方薬のイノベーションと新たな発展を考えましょう」
近年、漢方医学の研究は、現代科学の実証的方法を用いて進展しています。数多くの生薬の成分の薬理作用や作用機序が解明されつつあり、生薬や天然物由来の医薬品の開発および治療法の向上が期待されています。漢方薬物学研究室では、漢方薬に関する幅広い研究を行っています。基礎バイオ研究からデータベースを利用した臨床解析、有害事象の評価にかけて、最新の情報解析技術とバイオインフォマティクス解析による漢方薬の薬理作用や作用機序について研究しています。

(取材実施 2023年10月)

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