2022.03.15

薬品を廃棄すると植物への影響はどうなる?イカはなぜ光る?身近な河川の水質は? ~高校生がサイエンス研究をプレゼン

先月、横浜薬科大学を会場に、東京学芸大学附属国際中等教育学校(東京都練馬区)、横須賀学院高等学校(神奈川県横須賀市)及び湘南学院高等学校(神奈川県横須賀市)の生徒が、自らの研究成果についてポスター発表を行いました。

このイベントはもともと横浜薬科大学の薬科学科(4年制)の学生が卒業前に毎年開催している研究発表会で、学生が自身の研究成果のプレゼンテーションを実施するものですが、今年は初の試みとして、高校生による研究発表会もコラボ企画として同時に実現したもの。
開会挨拶を行った薬科学科長の川嶋剛先生は、「最初は20を超える応募が寄せられたものの、オミクロン株による感染の急拡大の影響で参加を辞退する高校が多く、最終的には3校の参加となりました。コロナの影響で参加数は減ってしまいましたが、研究成果を発表する場を求めている学生が多いという実感は得られたと思います」と手応えを示しており、今後もこうした場を提供していきたいと話しました。
参加した高校生に向けても、「皆さんの先輩である大学生の研究やプレゼンテーションを見るよい機会とし、ここで得たことを今後の研究に活かしてほしい」とエールを贈りました。

ここでは、3校の生徒たちによる発表内容を紹介します。

研究タイトル「医薬品が豆苗の成長に及ぼす影響」

東京学芸大学附属国際中等教育学校 松野志保さん(5年)

松野さんの研究テーマは「医薬品が豆苗の成長に及ぼす影響」。近年、環境に残留する医薬品が食物連鎖に危険をもたらすことが報告されていますが、一方で医薬品が植物の成長に及ぼす影響はあまり知られていないのが現状です。さらに、松野さんはボランティア活動でフィリピンを訪れた際、ゴミと一緒に医薬品も野原に捨てられているのを見て、環境問題の観点からも医薬品が植物の成長にどのような影響を与えるかの研究を行いました。

研究では、市販の医薬品や病院で処方される医薬品を水に溶かした溶液を使って豆苗を栽培し、その成長を観察。その結果、医薬品の溶液で豆苗を栽培すると成長が抑制され、中でも頭痛・生理痛や発熱時に使われる多くの解熱鎮痛薬は豆苗の成長を強く抑制しました。
今回の研究では、医薬品の最小単位である1錠又は1包によって植物の成長が抑制されたことから、医薬品をそのまま廃棄することは自然環境に影響を及ぼす可能性があることが確認されました。松野さんは「昨年から多くの市民がCovid-19のワクチン接種を受けるようになったことに伴い、解熱鎮痛薬の販売も増えています。今回、解熱鎮痛成分により植物の強い成長抑制が観察されたことから、特に解熱鎮痛薬の廃棄時には注意を払う必要があると考えられます」とし、適切な方法で医薬品を処理することの大切さを指摘しました。

研究タイトル「スルメイカ(Todarodes pacificus)から単離した海洋性発光細菌の16SrRNA塩基配列解析による菌種同定」

横須賀学院高等学校 理科学部
小林尚樹さん(3年)、吉田望海さん(3年)

横須賀学院高等学校理科学部では、「スルメイカ(Todarodes pacificus)から単離した海洋性発光細菌の16SrRNA塩基配列解析による菌種同定」をテーマにポスター発表を行いました。この背景として、理科学部では約8年間にわたり海洋性発光細菌の発光メカニズムについて研究を行ってきました。「これまで研究に使用している海洋性発光細菌の菌種は先行研究によってPhotobacterium kishitanii とされていましたが、どのような方法で同定したのかが不明でした。研究対象の生物種名が不明だと、得られたデータの生物的意義を考察するうえで問題があるため、16SリボソームRNA遺伝子の一部の塩基配列を解析することによって菌種を同定することを目的とした実験を行いました」と、研究の経緯を説明します。

シークエンスの結果得られた396 bpを用いた相同性検索の結果、使用している菌株から得られた16SrRNA遺伝子とP. kishitanii の16SrRNA遺伝子が完全に一致したことから、先行研究が示したように、これまで使用してきた菌株はP. kishitanii であるとの考えに至りました。今回、発表を行った小林さんと吉田さんは、「より正確に菌種を同定するためには、さらなる遺伝子解析なども必要であり、今後も研究を継続していきたい」との意気込みを語っています。

研究タイトル「平作川並びに矢部川の水質調査」

湘南学院高等学校
大江健琳さん(1年) 木曽あおいさん(1年) 黒木志峰さん(1年) 島野那菜さん(1年) 鈴木心梨さん(1年)
田中悠希さん(1年) 宮澤希さん(1年)

湘南学院高等学校の発表テーマは、同校脇を流れている「平作川並びに矢部川の水質調査」について。平作川は3km先で海につながっており、潮汐の影響をうける河川。以前はあまり綺麗な河川ではありませんでしたが、近年ではカワセミなど清流で見られる鳥などが見られるようになったとしています。そこで、潮汐の影響をうけるこの河川で、生物群並びに水質を調べることで汚染具合を測り、今後、矢部川がどのように移り変わるかを考察することを目的に調査を行いました。

研究では、川の水を採取してパックテストや、DO(溶存酸素量)、BOD(生物化学的酸素要求量)及び残留塩素の検査を行いました。その結果、DOによる水質は良好と見られる数値でしたが、BODは採取した水に微生物や細菌が少なかったため適切な結果が得られず、再度実験を行う必要があるとまとめました。
今回の研究について、発表者からは「見た目はすごく汚そうな川でしたが、様々な調査を行ってみると、数値の上ではきれいな川であることが分かり、とても驚きました」との感想が聞かれました。メンバー全員が一年生ということもあり、不慣れな点はあったようですが、「引き続き研究を続けて、分からないことを調べていきたい」と意気込んでおり、未来の研究者としての今後のさらなる成長が楽しみです。

会場では、発表内容に対して横浜薬科大学の先生や先輩たちからの質問なども多く寄せられ、それに対して一生懸命に説明する高校生たちの姿が印象的でした。今回の発表を通じて得た気づきやアドバイスも参考にしながら、楽しく科学を追求していく若き研究者の活躍にさらなる期待が寄せられます。

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